研究課題
歯の再生に関する研究は、これまで組織工学的な手法を用いた方法が数多く報告されてきたが、コストや安全性等の問題で、臨床応用まで至っていない。そのため、われわれは実際に臨床展開が可能な歯数制御の分子メカニズムに着目した分子標的治療による歯の再生研究に取り組んできた。歯は、爬虫類以下は多生歯性であるのに対し、ヒトでは大臼歯が一生歯性以外は二生歯性で、歯数は厳密に制御されている。過剰歯を有する種々の遺伝子欠損マウスの解析により、過剰歯の発症メカニズムを明らかにするとともに、1つの標的分子を局所で操作することにより器官である歯を形成することができる可能性を示してきた。今回我々は、新たにCebpb-/-Runx2+/-マウスの上顎切歯において、表現型の解析を行った。CebpβKOのアダルトマウスでは、μCTにて切歯の形成端に不透過性病変を認め、エナメル質と象牙質の増生を認めた(13匹中4匹)。形成端そのものの大きさの縮小と形成端における、エナメル上皮幹細胞のマーカーであるSox2陽性像の有意な減少を認めた。CebpβKOマウスではエナメル芽細胞の極性の乱れとその周囲にエナメルマトリックスの小塊がみられた。また、Runx2Hetマウスにおいてもエナメル芽細胞の極性の乱れが観察された。更に、上皮間葉転換のマーカーであるNカドヘリンの陽性像を認めた。以上の結果より組織幹細胞のひとつであるエナメル上皮幹細胞から歯原性上皮幹細胞と上皮間葉転換により歯原性間葉細胞の両者が直接誘導され、過剰歯が形成されるという興味深い研究結果を見出した。更に、CEBPβを標的分子としてエナメル上皮幹細胞を利用した新たな歯数制御による歯の再生医療への展開を目指し、研究をすすめている。
2: おおむね順調に進展している
Cebpβ(129sv)とRunx2(C57BL/6)のダブル遺伝子改変マウスの表現型の解析を行った。その解析により、in vivoにおけるエナメル上皮幹細胞のステムネスの維持や、上皮間葉転換に関わる機序の解析を試みた。CebpβKOのアダルトマウスでは、μCTにて切歯の形成端に不透過性病変を認め、エナメル質と象牙質の増生を認めた(13匹中4匹)。形成端そのものの大きさの縮小と形成端における、エナメル上皮幹細胞のマーカーであるSox2陽性像の有意な減少を認めた。そのことより、Cebpβがエナメル上皮幹細胞のステムネスの維持に関わることを示すことができた。胎生15日目の上顎切歯歯胚ではRunx2HetとKOでは、過剰歯胚と考えられているlingual budが生じ、CebpβのKOも重なると相加的にその頻度、大きさが増していた。出生後3ヶ月のCebpβKORunx2Hetでは形成端に歯胚の形成 (12匹中4匹)を認めた。この結果より、過剰歯の形成に関して、CebpβとRunx2は、相加的に働き、また、agingの影響を受けることが明らかになった。CebpβKOマウスではエナメル芽細胞の極性の乱れとその周囲にエナメルマトリックスの小塊がみられた。また、Runx2Hetマウスにおいてもエナメル芽細胞の極性の乱れが観察された。更に、上皮間葉転換のマーカーであるNカドヘリンの陽性像を認めた。以上の結果より、CebpβとRunx2は、ともに上皮間葉転換の抑制に関わることが明らかとなった。以上の結果より、エナメル上皮幹細胞のステムネスの維持や、上皮間葉転換が過剰歯の形成に関わることをin vivoで明らかにした。更に、エナメル上皮幹細胞様株mHAT9dを用いてin vitroで解析を行っている。
申請書の研究計画に沿って、(1)In vitro評価系の構築と低分子探索歯胚の器官培養、マウス腎被膜下移植などのin vitroで歯の形成をおこす実験系を用いる。上記で選定された原因遺伝子(Runx2)の無歯症モデルマウスの歯胚の器官培養系においてsiRNA を用いてC/EBPβの機能を抑制し、in vitro で歯数を回復・増加させるシステムを確立する。標的分子の発現または機能抑制および活性をもった低分子化合物の大規模スクリーニングを行うための低分子化合物のライブラリーの構築やシステムの製作などに関しては、京大薬学研究科の有する1万種以上の化合物のライブラリーにアクセス可能である。標的分子のプロモーターを利用したルシフェラーゼアッセイなど、同時に大量の低分子化合物のスクリーニング可能な細胞培養システムを用いて1万種ほどの化合物の中から標的分子の機能抑制および機能亢進の作用を示す 5-10 種類に絞り込む。その化合物を利用し、歯の形成をおこす実験系を用いて、局所での発現抑制/機能亢進により同様に歯数の回復・増加が再現できるシステムを確立する。(2)In vivo評価系の構築in vitroで歯数を増加させることのできた標的分子のsiRNAや低分子化合物を用いる。それらを無歯症モデルマウスの歯胚部へ局所導入し、効率的に歯数を回復・増加させることのできる時期と発現量、発現部位を検討する。化合物に関しては、局所注入に加えて腹腔内投与、静脈内投与、経口投与など歯胚の数を増加させる効率的な投与方法を検討する。
本年度は、CebpβとRunx2のダブル遺伝子改変マウスの表現型の解析を中心に行った。いくつかの異なる種類の無歯症モデルマウス(Runx2, Eda、Pax9、Msx1遺伝子欠損マウス)を準備し、Cebpβとのダブルノックアウトマウスを解析する計画であった。幸いなことに、1匹目のマウスであったRunx2マウスとのダブルノックアウトマウスにおいて、上記の現在までの進捗状況に記載させて頂いた様に、大変興味深い結果を得ることに成功した。そこで、CebpβとRunx2のダブル遺伝子改変マウスの表現型の解析に集中することとし、残りのマウスとのダブルノックアウトマウスの表現型の解析を延期とした。そこで、当初予定していたマウスの維持繁殖代を節約することができ、次年度に使用できる予算が生じた。次年度は、CebpβとRunx2のダブル遺伝子改変マウスの表現型の解析、上記の研究計画にに加えて、in vitroの解析を加速する。そのため、組織特異的幹細胞であるエナメル上皮幹細胞様細胞株mHAT9d細胞を用いたCebpβとRunx2 siRNAを用いたノックダウンの実験にも新たに取り込むこととした。そのために、その予算を使用することとした。
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