研究課題/領域番号 |
17K11832
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 克 京都大学, 医学研究科, 准教授 (90314202)
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研究分担者 |
別所 和久 京都大学, 医学研究科, 教授 (90229138)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歯の再生 / 体性幹細胞 / エナメル上皮幹細胞 / Cebpβ / Runx2 |
研究実績の概要 |
歯の再生に関する研究は、これまで組織工学的な手法を用いた方法が数多く報告されてきたが、コストや安全性等の問題で、臨床応用まで至っていない。そのため、われわれは実際に臨床展開が可能な歯数制御の分子メカニズムに着目した分子標的治療による歯の再生研究に取り組んできた。今回我々は、Cebpβ(129sv)とRunx2(C57BL/6)のダブル遺伝子改変マウスの表現型の解析を行った。その解析により、Cebpβがエナメル上皮幹細胞のステムネスの維持に関わることを示すことができた。過剰歯の形成に関して、CebpβとRunx2は、相加的に働き、また、agingの影響を受けることが明らかになった。CebpβとRunx2は、ともに上皮間葉転換の抑制に関わることが明らかとなった。以上の結果より、エナメル上皮幹細胞のステムネスの維持や、上皮間葉転換が過剰歯の形成に関わることをin vivoで明らかにした。更に、エナメル上皮幹細胞におけるCebpβとRunx2の機能の詳細をin vitroで明らかにするために、エナメル上皮幹細胞様株mHAT9dへCebpβsiRNAとRunx2 siRNAを添加したノックダウンの解析を行った。mHAT9d細胞を用いたin vitro実験系においても、CebpβとRunx2が共調して、上皮間葉転換に関わることが明らかとなり、CebpβがSox2の発現維持に関連することも示された。以上の結果より組織幹細胞のひとつであるエナメル上皮幹細胞から歯原性上皮幹細胞と上皮間葉転換により歯原性間葉細胞の両者が直接誘導され、過剰歯が形成されるという興味深い研究結果を見出した。更に、CEBPβを標的分子としてエナメル上皮幹細胞を利用した新たな歯数制御による歯の再生医療への展開を目指し、研究をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エナメル上皮幹細胞におけるCebpβとRunx2の機能の詳細をin vitroで明らかにするために、エナメル上皮幹細胞様株mHAT9dへCebpβsiRNAとRunx2 siRNAを添加したノックダウンの解析を行った。最初にsiRNAのmHAT9d細胞への導入効率の最適化を検討した後に、効率的にターゲット遺伝子をノックダウンできるか検討した。mHAT9d細胞において、Cebpβ、Runx2 siRNA添加のより、mRNAの発現低下をsqPCRにて、また蛋白質の発現低下をWestern Blottingにてそれぞれ確認した。更に、Runx2type1特異的にノックダウンできるかどうかをRunx1, Runx2isoforms, Runx3のmRNAの発現を、同様にsqPCRにて確認した。mHAT9d細胞において、CebpβsiRNA添加にて、Sox2の発現低下を確認し、ステムネスが喪失する傾向を示したが、エナメル上皮細胞の特異的な分化マーカーであるアメロジェニン、アメロジェニンの発現は確認することはできなかった。mHAT9d細胞を用いたin vitro実験系においては、Cebpβだけでは、ステムネス維持、エナメル上皮細胞の分化抑制に十分であるという結果は得ることが出来なかった。次に、mHAT9d細胞において、Runx2 siRNA添加にて、上皮間葉転換が引き起こされるか検討したところ、そのマーカーであるSnail2と間葉細胞のマーカーであるN-Cadherinの発現上昇を確認した。同様に、CebpβsiRNA添加にて、Snail2の発現確認しを確認した。興味深いことに、Runx2 siRNA単独添加及び、Runx2 siRNAとCebpβsiRNAを同時に添加したところ、Biglycan, Decorin, BMP4/6/7の著明な発現上昇を認めた。更に、in vivoのCebpβとRunx2のダブル遺伝子改変マウスの上顎切歯形成端の過剰歯近傍の細胞にてDecorinの発現上昇を、免疫染色にて確認した。以上の結果より、mHAT9d細胞を用いたin vitro実験系においても、CebpβとRunx2が共調して、上皮間葉転換に関わることが明らかとなり、CebpβがSox2の発現維持に関連することも示された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)In vitro評価系の構築と低分子探索 歯胚の器官培養、マウス腎被膜下移植などのin vitroで歯の形成をおこす実験系を用いる。 上記で選定された原因遺伝子(Runx2)の無歯症モデルマウスの歯胚の器官培養系においてsiRNA を用いてC/EBPβの機能を抑制し、in vitro で歯数を回復・増加させるシステムを確立する。標的分子の発現または機能抑制および活性をもった低分子化合物の大規模スクリーニングを行うための低分子化合物のライブラリーの構築やシステムの製作などに関しては、京大薬学研究科の有する1万種以上の化合物のライブラリーにアクセス可能である。標的分子のプロモーターを利用したルシフェラーゼアッセイなど、同時に大量の低分子化合物のスクリーニング可能な細胞培養システムを用いて1万種ほどの化合物の中から標的分子の機能抑制および機能亢進の作用を示す 5-10 種類に絞り込む。その化合物を利用し、歯の形成をおこす実験系を用いて、局所での発現抑制/機能亢進により同様に歯数の回復・増加が再現できるシステムを確立する。 (2)In vivo評価系の構築 in vitroで歯数を増加させることのできた標的分子のsiRNAや低分子化合物を用いる。それらを無歯症モデルマウスの歯胚部へ局所導入し、効率的に歯数を回復・増加させることのできる時期と発現量、発現部位を検討する。化合物に関しては、局所注入に加えて腹腔内投与、静脈内投与、経口投与など歯胚の数を増加させる効率的な投与方法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
エナメル上皮幹細胞様株mHAT9dへCebpβsiRNAとRunx2 siRNAを添加したノックダウンの解析を行った。幸いなことに、前年度までのCebpβとRunx2のダブル遺伝子改変マウスの表現型の解析と組み合わせることにより、”EMT and Supernumerary Tooth Formation in Cebpb-/-Runx2+/- Murine Incisors.” の論文が、Sci Repにアクセプトされた。そこで、当初予定していたマウスの維持繁殖代を節約することができ、次年度に使用できる予算が生じた。次年度は、当初計画に加えて、将来のヒト臨床展開を視野に入れ、ヒト過剰歯におけるエナメル上皮幹細胞の役割について疫学的な解析にも新たに取り込むこととした。そのために、その予算を使用することとした。
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