研究課題
口腔扁平苔癬 (oral lichen planus: OLP) は網状の白線、びらんや水疱など多彩な症状を呈する慢性炎症性疾患である。近年WHOは、本疾患を premalignant condition から potentially malignant disorder と位置づけたが、実際一部の OLP 症例では扁平上皮癌への悪性転化が認められるため、OLPの病態進展をいかに抑制するかが治療上重要となる。これまでの研究で、OLPの発症・病態進展にはTh1/2バランスと樹状細胞(DC)が関与していることを知り得た(H26~28年度 基盤研究C 課題番号26463013)。また最近、OLP病態形成の起点でありT細胞分化の方向付けをするDCにも、幾つかのサブセットがあることが報告されている。そこで本研究では、Th1/2バランスに関与するDCのサブセットを中心としたOLP病態形成免疫細胞ネットワークの解析を行うことで、OLPの病態発症・進展に関連する分子の同定を第一の目的とし、さらにそれら関連分子を標的とした癌化予防治療戦略の確立を目指す。
3: やや遅れている
IL-33は病変・正常部ともほとんど発現を認めなかったが、TSLPはOLPの病変部のみ基底膜とその直下の浸潤炎症細胞に強い発現を認めた。TSLPはOLP以外の過角化症の基底膜にも発現を認めたが、CD11c (mDC) やGATA3 (Th2転写因子) はOLPの基底膜直下のみに著明に発現しており、CD11c陽性細胞数とGATA3陽性細胞数は正の相関を示した。さらにDCのサブセットとして、mDC は CD11cを、pDC はCD123 を、DC1 は CD1a を、DC2 は CD141を用いて免疫組織学染色を実施し、OLP病変局所でのDCサブセット解析を行っているところである。また、OLP の病態形成に関わる上皮由来の疾患関連分子を同定することを目的として、OLP患者の頬粘膜の病変組織をLaser microdissectionにて病変部上皮と正常上皮を分離採取し、DNAマイクロアレイを行った。両群の遺伝子発現を検定し (limma アルゴリズム) 、病変部で発現変動を認めた遺伝子を抽出した。次に、Gene Ontologyとアノテーションを用いて発現変動遺伝子の機能解析を行った。こ解析では、TSLP関連分子の同定はできなかったが、OLP病変では正常組織と比較してカテプシンKの有意な発現上昇がみられた。現在、この分子生物学的意義の検討を行っているところである。諸処の事情より、試料のサンプリング数などが予定より下回っているため、網羅的解析にやや遅れが生じている状態である。今回は研究期間の延長申請を行い、本年度も継続研究を行うこととした。
今回、網羅的解析で抽出されたカテプシンKは、IL-6やIL-23などの炎症性サイトカイン産生を制御することで、Th17細胞分化を誘導し自己免疫性炎症を引き起こすことが報告されている。仮説ではあるが、カテプシンKが特定のDCを活性化し、そのDCが産生するIL-23を調整することでTh17の誘導を行っていることが推察される。まずはカテプシンKの感作で分化する特定のDCサブセットを明らかにすることで、OLP発症から重症化にいたる病態解明の一助になることが考えられる。諸処の事情より、試料のサンプリング数などが予定より下回っているため、網羅的解析にやや遅れが生じている状態である。今回は研究期間の延長申請を行い、本年度も継続研究を行うこととした。
研究代表者である私の研究以外の業務が多かったため、本年度は研究に当てる十分な時間がとれなかった。そのため、当初予定していた研究計画に遅れが生じた。研究成果がでるとことまでもう少しあるので、来年度も研究期間延長を申請した。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Arthritis Rheumatol.
巻: Jan;72(1) ページ: 166-178
10.1002/art.41052.
Sci Rep.
巻: Oct 10;9(1) ページ: 14611
10.1038/s41598-019-51149-1