研究課題/領域番号 |
17K11851
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
加茂 政晴 岩手医科大学, 歯学部, 准教授 (40214564)
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研究分担者 |
石崎 明 岩手医科大学, 歯学部, 教授 (20356439)
小松 祐子 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (90781625)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がんの転移 / 細胞内シグナル伝達 / 口腔扁平上皮癌 / 上皮間葉転換 / 間葉上皮転換 |
研究実績の概要 |
癌の転移においては、上皮間葉転換(EMT)により癌細胞の組織浸潤が可能になった後、転移先での癌細胞の定着と再増殖が重要であり、再び上皮様細胞の性質を持つ必要がある。この性質を誘導する因子として間葉上皮転換(MET)の関与が示されている。ヒト口腔扁平上皮癌細胞(hOSCC)であるHSC-4細胞株はTGF-β1によりEMTが誘導されることを我々は報告している。BMPは、METに関与することが示唆されているが、その機構は明らかではない。これまでhOSCCにおけるBMPに対する応答の研究は少なく、またその作用も明らかとされてない。そこで、BMP-2及びTGF-β1がhOSCCのEMT/MET関連遺伝子の発現に対してどのように影響するのかについて研究を行った。 HSC-4細胞おいてSmad6及び標的遺伝子ID1の発現、及びSmad1/5/9のリン酸化に対して有意な応答が見られたことから、HSC-4細胞はBMP-2とTGF-β1の両者に応答するhOSCC細胞として初めて見いだされた。またBMP-2は、TGF-β1と異なり、間葉マーカーであるN-cadherinの発現を抑制するのに対して、上皮マーカーのcytokeratin9の発現を上昇させたことから、EMTではなくむしろMETを誘導することが示唆された。一方、BMPによるEMT関連転写因子Snailの発現抑制、及びMET関連因子であるID1の発現増大も同様にTGF-β1により打ち消された。これらのBMP-2の作用がTGF-β1により濃度依存的に阻害されること、TGF-β1はBMP-Smad1/5/9シグナルを減弱させたことから、TGF-β1はBMP-2によるMETを抑制することが示された。BMP-2が遊走能を低下させ、且つ細胞増殖を増大させたことは、転移先での癌細胞のコロニー形成をBMP-2が誘導する可能性を示すものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
HSC-4細胞において、BMP-2がMETを誘導することを見出し、シグナル経路の分子の発現やリン酸化の程度の変化、EMT を誘導するSnail やSlug などの転写因子ならびにMET を誘導するID1 などの転写因子の発現変化について調べ、TGF-β1とBMP-2とのシグナルクロストークを明らかにして論文としてまとめることができた(Oncol Rep 37:713-720, 2017)。他のBMPについては、BMP-2が最も応答性が大きかったが、サイトカインとの組合せについては、まだ十分に検討ができていない。そこで、基本的にはTGF-β1とBMP-2の組合せで研究を行い、EGF, HGF 及びFGFなどのサイトカインとの相互作用を調べることにより、in vitro 浸潤・転移モデルの確立を速やかに行う。 TGF-β1 とBMP-2 とのシグナルクロストーク全容の解明については、Smad 経路の分解に関わるE3 リガーゼ類、及びTGF-β及びBMP 受容体の発現変化や内部への移行については、TTGF-β1については検討したが、BMP-2については、まだ調べられていないため今後速やかに行う。 癌関連線維芽細胞(CAF) と腫瘍細胞との相互作用について調べるためHSC-4 細胞とCAF との共培養系の作成は、現在進行中である。最初に、癌細胞及びCAF から産生されて細胞外に放出される因子の影響を見るため、各培養上清をそれぞれの細胞に加えて、その作用についてqRT-PCRにより調べている。
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今後の研究の推進方策 |
癌関連線維芽細胞(CAF)との相互作用に注目した新たなEMT/MET調節因子を探索して、ヒト口腔扁平上皮癌細胞におけるin vitro浸潤・転移のモデルを確立し、浸潤・転移を抑制する新たな分子標的を見出す。 1. 平成30年度では、(1) TGF-β1とBMP-2とのシグナルクロストークによるHSC-4細胞のEMT/MET変換機構に、CAFが原発部位モデルと転移部位モデルのそれぞれにどのように影響するのかについて調査する。HSC-4 細胞とCAF との共培養(原発部位モデル)でTGF-β1の発現が高くBMP-2の発現が低くなること、TGF-β 刺激されたHSC-4 細胞とCAF との共培養(転移部位モデル)でBMP-2の発現が高くTGF-β の発現が低くなることをqRT-PCR 及びELISA により確認する。以上の結果によりin vitro 浸潤・転移モデルを確立する。 2. 平成31年度では、(1) CAF との相互作用によるEMT/MET 誘導化因子の発現と浸潤・転移促進因子の同定:癌細胞とCAF 間の相互作用により産生されて細胞外に放出される新規の癌浸潤・転移促進因子を、培養上清のプロテオーム解析あるいは線維芽細胞におけるサイトカインのDNA プライマーアレイにより同定を行う。解析には、TGF-β 刺激による線維芽細胞株(マウス由来のNIH-3T3)とHSC-4 細胞との共培養系を用いる。(2) EMTが誘導されたHSC-4細胞のヌードマウスでの転移能を調べると共に、BMP/サイトカイン阻害物質によりその転移が抑制されるかを調べる。
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