研究課題
腫瘍組織再現能をもち、抗癌剤や放射線への抵抗性を有し、再発・転移の最大原因と考えられているがん幹細胞(Cancer stem cell: CSC)に注目した口腔癌に対する新たな治療法の開発を目指した研究である。 本研究は、CSCにおけるPI3K/Akt/mTOR経路とCSCを静止期から増殖期に移行させる重要な鍵を握ると思われる腫瘍関連マクロファージ(Tumor associated macrophage: TAM)における活性経路の双方からアプローチし、治療抵抗性を示す口腔癌に対する新たな治療法を検討した。in vitroで、マウス同系扁平上皮癌株(SCCⅦ)を培養下に酵素処理して細胞解離剤で単一細胞化し、フローサイトメーター(FACS)を用いてCD44(+)細胞とCD44(-)細胞の分取を行った。 In vivoで、マウス由来の扁平上皮癌株であるSCCVII細胞をC3Hマウスの咬筋内に移植し、口腔癌浸潤モデルマウスを作製した。CSCに対する治療として、CSF-1/CSF-1Rシグナルをターゲットに、CSF-1R阻害剤(PLX3397:PLX)を用いてTAM活性を抑制した効果とPI3K/Akt/mTOR経路をmTOR阻害剤(Temsirolimus:Tem)で直接抑制した効果、さらに、mTOR阻害剤とCSF-1R阻害剤の併用効果について検討を行った。 結果、CSF-1R阻害薬を用いることでCSCの活性化を抑制し、TAMの増殖が阻害されることでマクロファージから成熟破骨細胞への分化を制御したと考えられた。CSF-1R阻害剤とmTOR阻害剤の併用投与は、口腔癌の局所浸潤および顎骨浸潤を抑制したことで、今後、口腔癌に対する従来からの殺細胞抗がん剤に併用する新たな治療法になりうる可能性が示唆された。