研究実績の概要 |
シスタチンDは細胞外に分泌される唾液タンパク質であるが,活性型ビタミンD3(1α,25(OH)2D3)で発現誘導されると,核に移行して癌抑制作用を発揮すると報告されている。そこで,異なる転移能を持つと報告されている口腔癌由来細胞におけるシスタチンDの発現および作用を解析した。HSC-3細胞はフォルボールエステルの添加により遊走が促進されるが,1α,25(OH)2D3存在下で遊走が抑制された。シスタチンC(CST3)およびシスタチンD(CST5)の発現量を調べたところ,通常培地では発現はほとんどみられなかったが,1α,25(OH)2D3添加により,CST3発現がほとんど変化しないのに対してCST5は有意に発現量が増加した。また,耳下腺由来細胞でも1α,25(OH)2D3や活性酸素除去剤の添加によって発現が増加したことから,唾液腺機能維持との関連が示唆された。シスタチンDの蛍光染色によってHSC-3細胞における局在を調べたところ,核とは重ならず,核の周囲のゴルジ装置と局在が一致した。したがって,シスタチンDは発現増加するが核へは移行せず分泌されていると考えられ,シスタチンDの作用は細胞外からと予想された。そこで,ブレビバチラス分泌発現系で作成した組換えシスタチンDを培地に添加してHSC-3細胞の培養を行った。意外なことに,シスタチンDの添加により,有意に細胞増殖が促進された。遊走能については有意差はみられなかったが,促進される傾向にあった。このことから,悪性度の高いHSC-3では1α,25(OH)2D3添加によって遊走能の抑制とシスタチンDの発現増加がみられるが,シスタチンDの効果は癌抑制作用よりはむしろ悪性度と関連があることが予想される。
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