研究課題/領域番号 |
17K11858
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
三枝 禎 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (50277456)
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研究分担者 |
小菅 康弘 日本大学, 薬学部, 准教授 (70383726)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オピオイド受容体 / GABA受容体 / 側坐核 / ラット / 脳微小透析法 / 薬理学 |
研究実績の概要 |
中脳辺縁系ドパミン(DA)神経が投射する側坐核のDA神経活動のμまたはδ受容体を介した促進には,GABA介在神経の抑制によるDA神経の脱抑制が関与することが考えられる。我々は側坐核のμ受容体刺激が誘発したDA放出が同部位のGABAA受容体刺激により促進することを報告した(Aono et al., 2008)。一方,側坐核のδ受容体subtypeの刺激は同部位のDA放出を増大させるが,このDA放出にGABAA受容体刺激が及ぼす影響は明らかでない。そこで本年度は,δ1またはδ2受容体agonistが誘発した側坐核のDA放出に対するGABAA受容体agonistのmuscimolの効果について検討した。 実験には体重約200 gのS-D系雄性ラットを用いた。In vivo脳微小透析法により側坐核から回収した細胞外DAはHPLC-ECD法により5分毎に測定した。使用薬物は透析プローブから逆透析で側坐核に直接灌流投与した。投与量は灌流液中の総量(mol)で示した。 その結果,DPDPE(5 nmol)とは異なりdeltrophin II(25 nmol)が誘発したDAの増大は,基礎DA量に影響が認められない用量のmuscimol(250 pmol)の併用で抑制された。このmuscimolの効果は,基礎DA量とdeltrophin IIが誘発したDAの増大に影響がない低用量のGABAA受容体antagonistのbicuculline(50 pmol)の併用により消失した。 以上の結果からμおよびδ1受容体とは異なり,δ2受容体の刺激が誘発した側坐核のDA放出は同部位のGABAA受容体刺激により抑制されることが示された。また,δ2受容体刺激による側坐核のDA放出の発現には,同部位のDA神経終末のGABAA受容体へのGABA入力の低下が関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は,δ1またはδ2受容体agonistが誘発した側坐核のDA放出に対するGABAA受容体agonistのmuscimolの効果を指標として,δ1またはδ2受容体を介した側坐核のDA神経活動促進機構をGABAA受容体の役割の面から解析した。これらは当初の計画通りであった。 δ受容体agonistの側坐核に灌流投与は,同部位の細胞外DA量をδ受容体を介さない機構でも増大させる可能性があることが知られている。このため,当該年度はδ1受容体agonistのDPDPE(5 nmol)とδ2受容体agonistのdeltrophin II(25 nmol)の側坐核への灌流投与が誘発した同部位のDAの増加が,それぞれ基礎DA量に目立った影響がない用量のδ1受容体antagonistのBNTX(0.15 nmol)またはδ2受容体antagonistのnaltriben(1.5 nmol)の併用によりほぼ完全に消失することを実験で確認した。結果として当初計画以上の実験を実施したが,本研究の実験条件下でδ受容体subtypeのagonist誘発性の細胞外DAの増加はδ受容体刺激に依存したものであることが確認できた。このことは次年度以降に実施する神経化学実験結果の解釈に大いに役立つことが期待された。 当該年度の研究の成果に関する知見は,2017年10月に東京都文京区で行われた日本薬理学会関東部会で発表できた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,側坐核のδ受容体subtypeの選択的活性化が誘発した同部位のDA放出促進におけるGABAB受容体の役割について検討することを目的とした神経化学実験を行う。具体的には,無麻酔非拘束ラットを用いた in vivo脳微小透析法により,δ1受容体agonist(DPDPE)またはδ2受容体agonist(deltrophin II)の側坐核への灌流投与が誘発した同部位の細胞外DA量の増大に対するGABAB受容体agonistのbaclofenの効果について解析することを計画している。Baclofenの効果がGABAB受容体刺激を介したものであることを確認するため,GABAB受容体antagonistのsaclofenの併用実験を行う。行動学実験として,これら薬物処置が実験動物の行動に及ぼす影響を観察する。神経化学・行動学実験後には,脳の組織切片を作成をして脳微小透析プローブが側坐核に位置していたことを確認する(組織学実験)。これらの研究の成果は2019年3月に大阪府で行われる日本薬理学会などで発表する予定である。 【役割分担】総括・神経化学実験,行動学実験,組織学実験の遂行:三枝 禎(研究代表者)神経化学実験,組織学実験の遂行:青野悠里(研究協力者),小菅康弘(研究分担者),渡邉由梨子(研究協力者),石川 学(研究協力者),木村全孝(研究協力者),横山仁恵(岡田仁恵,研究協力者)研究の助言:J. L. Waddington(海外研究協力者)
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】計画していた実験が予算内で終了したため,55,766円を使用せずに残した。 【次年度の使用計画】次年度に繰り越す55,766円は実験のための物品費として使用することを計画しており,実験動物,試薬,HPLC消耗品の購入に充てる。
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