2019年度、我々は、p53の癌細胞に対する増悪化メカニズムに、細胞のエネルギーセンサーであるGPRC5bが関与するのではないかと考えて研究を行った。GPRC5bは、脂質ラフトに存在する受容体で、糖尿病の原因遺伝子とも考えられている。正常細胞においてGPRC5bは、細胞のインスリン抵抗性に関与することなど糖代謝に関与することが解明されていたが、GPRC5bが細胞に及ぼす代謝メカニズムについては明らかとなっていない。これまでに申請者らは、GPRC5bを癌細胞に強制発現させると、糖不含培地でその癌細胞を培養しても、細胞死を引き起こしにくい結果を得ていた。そこで、GPRC5bの代謝に関与するメカニズムを、GPRC5b強制発現細胞のそのMOCK細胞を用意し、通常の培地および糖不含培地で培養後、その細胞をサンプルにメタボローム解析 (委託サービスを利用) にて網羅的に解析を行った。結果として、通常培地では、GPRC5b強制発現細胞とMOCK細胞での代謝の変化は認められなかったものの、糖不含培地においては、GPRC5b強制発現細胞において、脂肪酸やポリケチドの合成に重要な役割を果たすマロニル補酵素Aの代謝が抑制されている結果を得た。また、このマロニル補酵素Aは細胞内で蓄積すると、アポトーシスを誘導することが知られている。本研究結果より、GPRC5bの癌細胞に対する機能として、低栄養環境下に癌細胞がおかれると、GPRC5bが活性化し、マロニルCoAの代謝を抑制することによって、低栄養による癌細胞のアポトーシスを回避することが示唆された。
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