再発性高転移性頭頚部癌は予後不良であり治療法も限定される。近年、癌免疫療法は外科手術・化学療法・放射線治療の三大標準治療に続く第四の治療法として注目され、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体の腫瘍での効果が長期間継続することが臨床で示されている。しかしこの薬剤が有効である患者は一部に限定されることから、効果を予測するマーカーの開発や併用薬剤の適正選択が課題とされる。この課題の解決にはPD-L1発現調節機構の詳細な解明が必要である。当科で樹立した癌浸潤様式の異なる口腔扁平上皮癌細胞株(浸潤様式3型OSC20細胞、浸潤様式4C型OSC19 細胞、浸潤様式4D型HOC313細胞)を用いて、種々の条件下でのPD-L1の発現量をqPCR、ウェスタンブロッティング、ELISA法を用いて検討した。さらに、各癌細胞でのMMP発現を調べ、PD-L1分解を通して発現量を調節しているMMPを検討した。 qPCRにおいて、PD-L1 mRNAはOSC-20で他の頭頚部癌細胞よりも高発現していたにも関わらず、OSC-20の膜表面のPD-L1タンパク量は他の癌細胞のそれより減少していた。そこで、他の頭頚部癌細胞と比較しOSC-20で発現が亢進しているMMPを調べたところ、MMP-7とMMP-13の発現が上昇していた。さらに、リコンビナントMMP-7とMMP-13は本研究で精製したPD-L1を分解していた。また、OSC-20細胞膜上でのPD-L1の分解はMMP-13特異的阻害剤でのみ抑制され、MMP-7阻害剤では抑制されなかった。さらに、タキサン系抗癌剤のうちパクリタキセルのみが高浸潤高転移性癌細胞(HOC313細胞)でMMP-13の発現を上昇させていた。
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