研究課題/領域番号 |
17K11874
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小野 重弘 広島大学, 医歯薬保健学研究科(歯), 助教 (70379882)
|
研究分担者 |
武知 正晃 広島大学, 医歯薬保健学研究科(歯), 准教授 (00304535)
飛梅 圭 広島大学, 医歯薬保健学研究科(歯), 准教授 (40350037)
東川 晃一郎 広島大学, 病院(歯), 講師 (80363084)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 唾液腺癌 / 口腔扁平上皮癌 / 上皮間葉移行 |
研究実績の概要 |
「臨床的に口腔癌の浸潤・転移を抑えることを目的とした基礎的研究」という口腔癌研究における基本理念の下で研究を行っており,その中でも口腔癌の浸潤・転移機構の本質の一つとして上皮間葉移行(epithelial-to-mesenchymal transition; EMT)に着目して研究を継続して行っている.一方,近年,EMTの生じた一部の細胞で癌幹細胞様形質があることが他臓器癌で報告されている.口腔癌,特に唾液腺癌では EMTと癌幹細胞との関連についての報告はほとんどない.われわれが臨床の現場で経験する予後不良の口腔癌はおおまかに2種類ある.口腔扁平上皮癌と唾液腺癌である.口腔扁平上皮癌は頭頸部領域で最も発生率の高い癌であり,リンパ行性および血行性に転移する.その転移率は30-40%とされており,予後は極めて不良である.また,唾液腺癌の一つである腺様嚢胞癌は,神経や血管への著明な局所浸潤と,肺転移を代表とする血行性遠隔転移を特徴とする悪性度の高いことが特徴で,再発率は16-85%,遠隔転移率は25-55%とされ,転移症例の予後は極めて不良である.口腔癌,特に唾液腺癌において,DUOX1が癌の浸潤,転移に関与しているという報告は極めて少なく,EMTに関与していることを報告している論文は国内外で皆無である.DUOX1が関与していると考えられる唾液腺癌,口腔扁平上皮癌の高度浸潤能獲得におよぼすEMTの機構の詳細を明らかにすることを目的として本研究を遂行している.これまでにわれわれがEMTに関して研究し,解明してきた細胞運動能,基質分解酵素の発現上昇,細胞接着因子の発現低下等をDUOX1ノックダウン細胞と過剰発現細胞を樹立し,これらを用いて詳細に細胞生物学的手法を用いて解析,検討を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DUOX1が関与していると考えられる唾液腺癌,口腔扁平上皮癌の高度浸潤能獲得におよぼすEMTの機構の詳細を明らかにすることを目的として本研究を行った.用いた細胞株は,すべて独自に樹立したものであり,継続的に研究材料として使用しており,これら細胞の遺伝子学的・分子生物学的データを蓄積している.細胞株の詳細は以下である.敷石状の上皮様形態を示しE-カドヘリンを発現している扁平上皮癌細胞,間葉系形態を示しE-カドヘリンの発現が消失している高度浸潤型扁平上皮癌細胞,Snailの強制発現によりEMTが誘導された扁平上皮癌細胞を用いて行った.DUOX1を介したEMTによる高度浸潤能獲得機構の解析を詳細に行うためにまず,DUOX1ノックダウン細胞の樹立を行った.DUOX1遺伝子のシークエンスから複数の合成siRNAを設計し,DUOX1を発現している細胞に遺伝子導入した.ウエスタンブロッティング法で発現消失を確認し,最も効率のよい配列を決定した.これをsiRNA用発現ベクターに組み込み,ノックダウン細胞を樹立した.さらに DUOX1過剰発現細胞の樹立をおこなった.DUOX1の発現細胞からDUOX1 mRNAを抽出し全長cDNAをRT-PCRで増幅しシークエンスを確認後,発現ベクターに組み込んだ.これをDUOX1の発現が消失している細胞にリポフェクチン法によって遺伝子導入し,G418などの選択マーカーを培地に添加し耐性細胞をクローニングリングによって分離し,導入遺伝子産物の発現を,抗体を用いたウエスタンブロッティング法で確認した.これら細胞を用いて DUOX1ノックダウンおよび過剰発現細胞の細胞生物学的性状をWound healing assayを用いて遊走能,Matrigel invasion assayおよび再構成三次元培養を用いて浸潤能と浸潤様式の検討を行った.しかし,DUOX1ノックダウンおよび過剰発現細胞の作成に手間取り,また細胞の安定性が得られなかったので一部の解析が滞ってしまった.
|
今後の研究の推進方策 |
まず第一に安定的なDUOX1ノックダウンおよび過剰発現細胞の樹立が必要であり,その作成に努力しなければならない.その上で当初の予定通り,DUOX1を介して唾液腺癌細胞株および口腔扁平上皮癌細胞株がどのように高度浸潤能を獲得するかを詳細にさらに検討する必要がある.また,DUOX1をノックダウンあるいは遺伝子導入によりEMTを獲得した細胞の一部が癌幹細胞様形質をもつことを解析する必要がある.具体的には,DUOX1ノックダウンおよび過剰発現細胞をヌードマウス背部皮下および舌におのおのの100万個程度移植して,腫瘍形成能を解析する.ついで,腫瘍形成能を有することを確認したのち,DUOX1ノックダウン細胞とコントロール細胞をFACSにて細胞表面マーカー(CD44,ALDH1)ごとに陽性,陰性に分画する.さらに,非接着性プレートを用いて,血清無添加培地に上皮細胞成長因子(EGF)および塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)のみを加えて,数週間培養してスフィアコロニーが形成されるかどうかを検討する.以上のことを行い,DUOX1誘導型EMTにおける癌幹細胞の関与についての解析する予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に基づきDUOX1ノックダウンおよび過剰発現細胞作成を行ったが,本作成に手間取り,安定的なこれらの細胞の作成が滞ってしまった.そのため,さらなる解析が行えなかったために次年度使用額が生じてしまった.本予算は,安定的な遺伝子導入細胞の作成,細胞生物学的解析および消耗品の購入に使用させていただく予定である.
|