研究課題
これまでは口腔癌で最も頻度の高い舌癌を対象としてC5a受容体発現を調べ約1/3の症例での発現を示したが、今回は腺様嚢胞癌を新たに研究対象とした。腺様嚢胞癌は、口腔や大唾液腺等に発生し口腔癌としては頻度が低い。しかし、この癌は周囲への浸潤傾向が強く遠隔転移の頻度が高いので、有効な治療の開発は口腔外科診療の重要な課題である。現在、手術による癌切除が中心をなす治療である。補助療法として、放射線療法や化学療法が施行されているもののその有効性については一定の見解が得られていない。そこで、新規治療法開発の第一歩として、口腔癌とC5a-C5a受容体系との関係を解明するために、腺様嚢胞癌のC5a受容体発現を調べた。対象は熊本大学付属病院病理部に保存されている約60名の腺様嚢胞癌組織で、抗ヒトC5a受容体モノクローナル抗体とこれまで他の癌の研究でも使用したEnVision+ キットによる免疫組織染色で発現を検出した。結果は、1/4から1/3の症例で、C5a受容体が腺様嚢胞癌細胞膜に検出された。このC5a受容体陽性率は20%程度の乳癌に比べるとやや高かったが、50%以上が陽性である子宮頸癌、子宮体癌、甲状腺癌よりは低かった。この結果は、これまで癌促進系として明らかにされてきたC5a-C5a受容体が腺様嚢胞癌にも存在することを示しており、この系を標的とした治療法がこの癌にも応用できる可能性を示唆する。今後、症例数を増やして腺様嚢胞癌のC5a受容体発現をさらに検討し、患者の臨床病理学的パラメーターとの相関を調べてC5a-C5a受容体系との関係を明らかにする計画である。最終的にはC5a-C5a受容体系を標的とする口腔癌治療法の確立を目指す。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Medicine, and Pathology
巻: 32 ページ: 132-135