研究課題/領域番号 |
17K11884
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
吉岡 泉 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (10305823)
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研究分担者 |
松原 琢磨 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (00423137)
古株 彰一郎 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (30448899)
自見 英治郎 九州大学, 歯学研究院, 教授 (40276598)
松尾 拡 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (70238971)
大澤 賢次 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (70638238) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 口腔扁平上皮癌 / 顎骨浸潤 / 上皮間葉移行 / p130Cas / TGFβシグナル |
研究実績の概要 |
口腔扁平上皮癌(OSCC)の顎骨浸潤は予後を左右する重要な要因である。癌細胞が周囲組織に浸潤し遠隔転移する際に、上皮間葉移行(EMT)、すなわち癌細胞が間葉系細胞様に形態変化をし、移動・浸潤能を獲得することが知られている。p130Casは細胞骨格を制御し、様々な種類の癌細胞で発現が上昇しているためEMTへの関与が示唆されているが、その役割には不明な点が多い。そこで本研究では、まず ヒトOSCC顎骨浸潤検体を用いてp130Casと代表的なEMT誘導因子、TGFβシグナルとの関連を免疫組織学的に明らかにする。さらに扁平上癌細胞(SCC)株を用いて細胞の形態変化・移動・浸潤および骨破壊におけるp130Casの役割を検討する。手術で切除したヒトOSCC顎骨浸潤サンプルを用いた。細胞はSCCⅦを用いた。遺伝子導入はリポフェクション法を使用した。タンパクはWestern blotting法で定量した。細胞移動能はWound Healing assayで、細胞浸潤能はトランス チャンバーを用いたinvasion assayで評価した。 マウスは8週齢雄マウスを用いた。 OSCCの顎骨浸潤部ではTGFβシグナルが亢進した細胞とp130Casの活性化が一致した。p130Casの発現量が低いSCCⅦでは、TGFβ シグナルを過剰発現しても細胞形態変化が乏しかった。また同様に細胞の移動・浸潤能も低かった。さらにin vivo骨破壊モデルにおいても p130Casの発現が低いSCCⅦ細胞を接種した群では 頬骨弓の骨破壊が少なかった。 SCC細胞の形態変化・移動・浸潤および骨破壊にはp130Casが不可欠である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は当初下記のように計画していたが、実績の概要の通り、研究はおおむね順調に進展している。 ヒトOSCC顎骨浸潤サンプルを用いたEMTの確認:手術で切除したOSCCの顎骨浸潤サンプル10症例につき、連続切片を作製し、p130Casの発現とEMTおよびTGF-β、シグナル(リン酸化Smad2/3)に対する抗体を用いた免疫染色を行い、浸潤先端部でEMTが起こっていることを確認した。 ヒトおよびマウスOSCC細胞株を用いたEMTの確認:ヒト口腔扁平上皮癌細胞株SAS細胞、マウス扁平上皮癌細胞株SCCVII細胞をTGF-βで刺激し、継時的に細胞の形態変化を検討した。さらにTGF-β刺激前後で間葉系マーカーの発現をreal time PCR法またはWestern blot法で確認した。 ヒトおよびマウスOSCC細胞株の浸潤能の検討:ヒト口腔扁平上皮癌細胞株SAS細胞、HSC-2細胞およびCa9-22細胞、マウス扁平上皮癌細胞株SCCVII細胞をTGF-βで刺激し、以下の実験をおこなった。① 細胞増殖とアポトーシスの測定② トランスウェルを用いた細胞の遊走能の測定③ マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-2,9の発現と酵素活性の測定 SCCVII細胞にp130Cas, 主要チロシンリン酸化部位をフェニルアラニンに置換した変異体(p130CasYF)およびshRNAを用いたノックダウン(shp130Cas)の遺伝子導入とstable cell linesの樹立:SCCVII細胞に野生型p130Cas,およびshp130Casを遺伝子導入し、stable cell lineを樹立した
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今後の研究の推進方策 |
樹立したstable cell linesを顎骨浸潤モデルで検討:stable cell linesをマウス右咬筋部から移植する。腫瘍接種1週間後に骨と腫瘍の境界部にTGFを投与し、さらに2週間後にマウスを安楽死させ以下の方法を用いて顎骨浸潤を評価する。① CT撮影:骨破壊の状況を3次元的に評価する。② 病理組織学的解析 CT撮影で骨の破壊が認められた部位を横断面で組織切片を作製する。(i)H&E染色:顎骨浸潤の全体像を把握する。(ii)酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)染色:破骨細胞のマーカーであるTRAP染色を行い、破骨細胞数を定量する。(iii)免疫染色:癌細胞の増殖を評価するKi67染色、RANKL、OPGの発現をそれぞれの抗体を用いて免疫染色をおこなう。(iv) TUNEL染色:癌細胞のアポトーシスを評価する。 p130CasがEMTを引き起こす上で重要な部位の同定:上記実験の結果からp130CasがEMTを引き起こす上で重要な部位を同定する。もしチロシンリン酸化部位が重要である場合、幾つかのチロシンリン酸化部位特異的なp130Casリン酸化(p-p130Cas)抗体が市販されているので、この抗体を用いて九州歯科大学で手術により切除したOSCCの顎骨浸潤サンプルの免疫染色を行い、悪性度や予後との相関が認められるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
HSC-2細胞およびCa9-22細胞をTGFで刺激し、継時的に細胞の形態変化をrhodamin-pharoidin染色で検討する予定であったが、未実施である。そのため次年度はこの実験系の経費とする。
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