神経障害性疼痛は痛覚神経系の損傷により発症する難治性の慢性痛であるが、未だ有効な治療法が確立されていない。本研究は「腸内細菌叢が神経障害性疼痛を制御する鍵因子である」との仮説を基に、腸内細菌叢による神経障害性疼痛制御機構を解明する。さらに得られた知見を集積し、腸内細菌を利用した神経障害性疼痛に対する全く新たな治療法を開発する。 腸内細菌叢は食物繊維を発酵して短鎖脂肪酸であるプロピオン酸・酢酸・酪酸などを産生することが知られており、産生された短鎖脂肪酸は腸管から吸収され血行に入り、門脈を通過して肝臓へ到達する。その後短鎖脂肪酸は様々な臓器に運搬され、短鎖脂肪酸受容体:short-chain free fatty acid receptor(FFAR2およびFFAR3)に作用し、それぞれの作用を引き起こす。特に神経節にはFFAR3が発現しており、神経活動を制御していると考えられている。 本年度は、短鎖脂肪酸であるプロピオン酸によるcAMP産生抑制作用が、FFAR2・FFAR3のknockdownやFFAR2の拮抗薬の前投与で抑制されるかどうかについて調査した。短鎖脂肪酸によるcAMP産生抑制作用はFFAR3のknockdownで有意に遮断されたが、FFAR2のknockdown及びFFAR2の拮抗薬の前投与では変化が認められなかった。それゆえ、短鎖脂肪酸はFFAR3を介してcAMPの産生を抑制していることが示された。神経節にはFFAR3が発現していることが知られており、短鎖脂肪酸はFFAR3を介して神経活動を制御している可能性が高まった。
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