研究者らは気管支喘息発作の機序の一つとして、気管支平滑筋細胞内でのcAMPを介した調節機構に注目している。また、その調節作用に影響を及ぼすものとして漢方生薬由来物質に注目し、気管支平滑筋調節機構の解明を目指してきた。そのなかでも苦参(Kushen)由来フィトケミカルを用い、気管支収縮の直接的調節機構、気管上皮由来のメッセンジャーを介した間接的な平滑筋調節機構、ならびに気管上皮の安定化作用の解明を目指している。 先行研究で、苦参配合漢方生薬合剤抽出物にはmyosin light chain(MLC)のリン酸化抑制すなわち平滑筋収縮抑制効果がみられた。そこでこれらの作用経路を検討するため、PKCを介する収縮系とPKAを介する抑制系の細胞内情報伝達経路を検討することとし、それぞれCPI-17とHSP-20のリン酸化を指標とした。その結果Kushen抽出物は主にcAMPシグナル伝達経路であるPKAを会した経路を活性化したが、その作用点としてACとPDEを検討し、各フィトケミカルによるPDE4活性の測定をおこなっている。また気管平滑筋細胞のフィトケミカル前処理によりPGs等が産生・分泌され、周囲組織に作用する可能性もあり、PGsの測定を研究協力者と進めているが、MLCリン酸化の抑制は明らかには観察されていない。一方PKCを介した収縮系に関連して、上流に位置するPLCによるIP3産生による細胞内カルシウムイオン増加の関連に重要な役割を果たしている可能性もある。Kushen抽出物による平滑筋細胞の持続的収縮機構への関与にはまだ不明な点も多く、細胞内Ca2+濃度変化を観察する蛍光プローブを用い検討中である。
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