本研究では、アルツハイマー病(AD)モデルラットを用い、ADが痛覚へ及ぼす影響を検討した。 【実験1】モデルの作製:ADモデルラットは、Aβ1‐40およびイボテン酸を両側海馬へ注入することで作製した。モリスの水迷路および Y字迷路試験にて認知機能の評価を行ったところ、空間学習及び記憶の保持能力の障害が認められた。さらに、ラットの脳の海馬の神経脱落やAβの蓄積が観察された。 【実験2】痛覚異常の評価:ADモデルラットの上口唇及び足底でホルマリンテストを実施した。その結果、化学的刺激に対する反応性の低下が認められ、痛覚鈍麻の可能性が示唆された。一方、機械的刺激(フォンフライテスト)や温熱刺激(ホットプレートテスト)においては有意な変化は生じていなかった。 【実験3】口腔領域に認められた痛覚異常のメカニズムの検討:(1)三叉神経節への影響:ADモデルラットの三叉神経節から分離した単細胞を使用し、ホールセルパッチクランプ法を用いて活動電位の波形分析を行い、神経活動性を評価した。その結果、三叉神経節細胞のNa+Currentに変化はなく、神経興奮性に有意な差は認められなかった。(2)二次中継核の変化の検討:ホルマリンテストから120分後に脳を潅流固定し、三叉神経脊髄路核でのc-Fos発現陽性細胞数を計測した。その結果、三叉神経脊髄路核でのc-Fos発現陽性細胞数は、ADモデルラットにおいて有意に減少した。 【成果】以上の結果より、ADモデルラットでは化学的刺激に対する反応性の低下が認められ、痛覚鈍麻の可能性が示唆された。一方、機械的刺激や温熱刺激においては有意な変化は生じていなかった。今後、その痛覚鈍麻のメカニズムの解明が必要である。
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