舌痛症は口腔顔面領域の最も多い疾患の一つであるが長期的に遷延し難治性疼痛となっている場合が多い。その病態は、特殊な神経障害性疼痛、心理社会的要因の関与などが言われているが、まだまだ明確ではない。治療法として、抗うつ薬や抗けいれん薬、認知行動療法による治療はそれぞれエビデンスがあるが、その有効性は患者個人によって違い、病態には様々なタイプがあると考えられる。 本研究では、抗うつ薬や認知行動療法による治癒過程における神経科学的修復機構を 脳機能画像で評価した。また、心理質問紙調査により治療の情動面への影響、および身体内受容感度検査により、身体の鋭敏性が病態に与える影響について調査した。 安静時のfunctional-MRI撮像によりそれぞれの治療前後の脳機能評価を行ったところ、抗うつ薬による治療では扁桃体などの辺縁系領域、認知行動療法では前頭前野など新皮質領域に変化が認められ、これらの領域との関係が考えられた。それぞれ変化する部位が違うため、どちらの治療も重要であると考えられた。 心理質問紙では、破局的思考、抑うつ、不安が強いほどに難治性となる傾向が認められた。また、心拍受容感度テストによる身体感覚の鋭敏性試験では、不安と抑うつが強い患者ほどに、身体感覚の鋭敏性が高い傾向にあることが判明した。このことより、不安や抑うつ、破局的思考と身体内感度の鋭敏性は舌痛症の病態に関与することが示唆された。 舌痛症の治療としては抗うつ薬の投薬治療に、不安や破局的思考に焦点を当てた認知行動療法を併用することが有用と考えられた。
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