研究課題/領域番号 |
17K11915
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
大渡 凡人 九州歯科大学, その他部局等, 教授 (80194322)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | QT / アドレナリン / フェリプレシン / 高齢者 / 局所麻酔薬 / 致死的不整脈 / TdP / 心電図 |
研究実績の概要 |
不整脈は、有病高齢者の循環器系偶発症のなかでも重要なものの一つである。なかでも致死的不整脈は心臓突然死に直結するために重要性が高い。致死的不整脈の重要な一つであるTdP(torsades de pointes)は、特定の薬剤が心筋再分極過程に影響することにより、心電図QTcを延長させる結果、誘発されることが知られている。本研究では、歯科治療において不整脈を誘発する要因として重要といわれている局所麻酔薬含有の血管収縮薬が、この心筋再分極過程へ及ぼす影響について、心電図QTcを測定することにより解析し、TdP発生リスクが血管収縮薬によりどのように影響されるかについて検討した。 研究デザインはrandomised double-blinded crossover studyとし、高齢者18名を対象とした。現在までの解析では、アドレナリン投与群では投与前に比較して投与後、投与4分後、9分後で有意な上昇が認められた。一方、フェリプレシン投与群では、アドレナリンとは逆にQTcの短縮が認められた。 この結果は、先天性QT延長症候群、あるいは特定の薬剤により二次的にQTが延長している高齢者では、アドレナリン添加局所麻酔薬の使用は、TdPなどの致死的不整脈リスクを上昇させる可能性が高いことが示されたといえる。一方、フェリプレシンではQTcを短縮させる傾向が認められたことから、先天性QT延長症候群あるいは薬剤により二次的にQTが延長している高齢者においても、致死的不整脈のリスクを上昇させず、比較的安全に使用できる可能性が示されたものといえる。本研究結果は、「有病高齢者の安心安全な歯科治療を実現するための循環器系偶発症の予測システム」において、大変有用性の高い価値のある結果であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
局所麻酔薬に含まれる血管収縮薬による心電図QTcへの影響が、アドレナリンでは有意な延長、フェリプレシンでは短縮という相反する影響が認められた。本研究結果は、「有病高齢者の安心安全な歯科治療を実現するための循環器系偶発症の予測システムの開発」という、本科研費の目的において、致死的不整脈誘発リスク低減のためには、局所麻酔薬中の血管収縮薬はどれを選択するかという、重要な選択を行う上での重要な結果であるといえるため、本研究は概ね順調に進展しているものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では、局所麻酔薬中の血管収縮薬による有病高齢者の安全安心な歯科治療に及ぼす影響を、心電図QTcを測定することで、TdPという致死的不整脈リスクという観点から明らかにすることができた。今後は、このQTc延長が、実際の不整脈発現に影響しているか否か、また、血管収縮薬が、心電図のQTc以外のパラメータ、すなわち、T-wave alternans, ST,等へどのように影響しているか、その他の循環系のパラメータである血圧変動、心拍数変動などに及ぼす影響はどうなのか、などを明らかにするために、retrospectiveに多数の症例を解析し、多変量的に検討してゆく予定である.このような研究推進により、「有病高齢者の安心安全な歯科治療を実現するための循環器系偶発症の予測システム」の開発を進めてゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度中に論文作成する予定であったために、そのための費用を残しておいた。しかしながら、心電図解析に予想以上の時間がかかったために、論文作成が次年度(今年度)になった。このために、次年度使用額が0以上となった。次年度(今年度)はこの費用を用いて、論文作成を行う予定である。
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