研究課題/領域番号 |
17K11917
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
三上 俊成 岩手医科大学, 歯学部, 准教授 (40405783)
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研究分担者 |
北川 雅恵 広島大学, 病院(歯), 助教 (10403627)
岡田 康男 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 教授 (40267266)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遺伝子検査 / 歯原性腫瘍 / 次世代シーケンス / DNA解析 / transcriptome解析 / エナメル上皮腫 / heterogeneity / 原始性歯原性腫瘍 |
研究実績の概要 |
研究計画に基づき、初年度は歯原性腫瘍症例の遺伝子解析と培養実験を行った。遺伝子解析では海外研究協力者であるBologna-Molina教授(ウルグアイ共和国大学)およびMosqueda-Taylor教授(メキシコ メトロポリタン自治大学)から希少症例を提供して頂いた。その結果、メキシコから原始性歯原性腫瘍4例、象牙質形成性幻影細胞腫2例、歯原性悪性腫瘍10例、ウルグアイから腺腫様歯原性腫瘍10例、広島大学と岩手医科大学からそれぞれ原始性歯原性腫瘍1例ずつを含むその他の歯原性腫瘍症例を加えて、遺伝子解析の研究試料とした。いずれも病理診断に用いられたホルマリン固定(またはPAXgene固定)パラフィン包埋試料からDNAまたはRNAを抽出し、次世代シーケンスとrealtime PCRでDNA変異解析、transcriptome解析を行った。その結果、原始性歯原性腫瘍の分化度、象牙質形成性幻影細胞腫のDNA変異について知見が得られた。 培養実験では、同一患者のエナメル上皮腫組織から初代培養にて樹立されたHAM1~3細胞を用いた。HAM細胞に対して次世代シーケンスによるtranscriptome解析、cell migration assay、wound healing assayを行った。これにより、腫瘍細胞のheterogeneity(不均一性)を検討した。その結果、E-cadherin陽性(vimentin弱陽性)の腫瘍細胞とE-caderhin陰性(vimentin強陽性)の腫瘍細胞では細胞特性が明らかに異なることが示された。 文献的にエナメル上皮腫でvimentinの発現は稀なことから、実際の症例で再確認が必要であると考えられた。また今後は、E-caderhin陰性(vimentin強陽性)の腫瘍細胞が他の腫瘍細胞に及ぼしている影響についてEMTを中心に検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
原始性歯原性腫瘍6例に対してDNA変異解析を行ったところ、癌関連151遺伝子、歯胚分化関連遺伝子、エナメル質形成関連遺伝子、象牙質形成関連遺伝子のいずれにも変異は認められなかった。一方、遺伝子発現解析ではエナメルタンパク関連遺伝子の多くが発現していたが、bglapの発現はほとんどなく象牙質が形成されていないことが遺伝子レベルでも確認された。免疫染色によりタンパク発現でも同様の傾向が確認されたことから、原始性歯原性腫瘍では象牙質形成に異常があることが示唆された。また、原始性歯原性腫瘍は歯胚の分化度では帽状期から鐘状期の後期に相当すると考えられた。 象牙質形成性幻影細胞腫2例に対して癌関連50遺伝子のDNA変異解析を行ったところ、いずれもCTNNB1の変異が認められた。嚢胞様構造はとらないものの、石灰化歯原性嚢胞と発症機序に関連がある可能性が示唆された。 初発から36年経過し、再再発後14年間未治療で経過したエナメル上皮腫に対する癌関連50遺伝子のDNA変異解析を行った。その結果、エナメル上皮腫で定型的なSMO遺伝子以外に変異の蓄積は認められなかった。臨床的には最近急激に腫瘍が大きくなったため悪性化を疑ったが、病理組織診断ではエナメル上皮癌と診断するに足る所見はなく、DNA変異解析でも癌関連50遺伝子に明らかな変異の蓄積はなかった。 HAM細胞ではHAM1と3がE-cadherinを発現して上皮の特徴をもち、HAM2はE-cadherinを発現せずvimentin発現が最も高いことが分かっていた。今回さらに各細胞のheterogeneityを調べたところ、cell migrationではHAM1とHAM3がHAM2より有意に高いmigrationを示した。wound healing assayではHAM2のhealingがHAM1、HAM3より明らかに少なかった。
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今後の研究の推進方策 |
原始性歯原性腫瘍では最大で3歳児に生じた90×70mmという報告がある。しかし本研究で解析したところ癌関連遺伝子や歯の発生に関わる遺伝子に明らかなDNA変異は認められなかった。歯原性粘液腫においても発症に関与すると考えられている明らかな癌関連遺伝子の変異は報告されていない。一方、腺腫様歯原性腫瘍では大きくても30mm程度で過誤腫の可能性が示唆されているが、癌遺伝子のkrasに変異のあることが以前に我々が行った研究でも明らかになっている。今後はkras変異が実際にMAPK pathwayの下流を活性化させているのか、免疫組織化学的に検討を行っていく。 象牙質形成性幻影細胞腫では歯原性石灰化嚢胞と同様にctnnb1の変異が明らかとなった。実際にctnnb1変異がwnt pathwayの下流にどのような影響を及ぼしているのか、歯原性石灰化嚢胞と併せて文献的に考察していく。 HAM細胞を用いた実験結果から、E-cadherin陽性(vimentin弱陽性)の腫瘍細胞とE-caderhin陰性(vimentin強陽性)の腫瘍細胞ではcell migration assay、wound healing assayに差がみられ、heterogeneityが示された。文献的にはエナメル上皮腫でvimentin発現を調べた報告が3件あり、うち2件ではそれぞれ24例中1例、17例中1例で陽性であったとされている。今後はE-caderhin陰性(vimentin強陽性)の腫瘍細胞がどの程度の頻度で生じているのか調べ、また他の腫瘍細胞にどのような影響を与えているのか腫瘍microenvironmentの観点からEMTを中心に検討していく。 以上の結果を踏まえ、病理診断や病態把握のための遺伝子検査に有用なマーカーを検索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の研究費を前倒しで受けたため。
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