研究課題/領域番号 |
17K11924
|
研究機関 | 朝日大学 |
研究代表者 |
土屋 博紀 朝日大学, その他部局等, 名誉教授 (30131113)
|
研究分担者 |
溝上 真樹 福井大学, 医学部器官制御医学講座麻酔・蘇生学領域, 特別研究員 (10231614)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 麻酔薬 / 薬理学的多様性 / 立体特異性 / 生体膜 / 相互作用 / キラル / コレステロール / 異性体識別 |
研究実績の概要 |
麻酔薬は、本来の麻酔効果に加えて抗酸化・抗菌・抗血小板・抗炎症・抗腫瘍等の様々な活性を有し、立体構造の違いによってもその強度が著しく異なる。このような立体特異性すら示す薬理学的多様性は、従来の作用機序だけでは説明できない。そこで、麻酔関連薬に共通する両親媒性構造と生体膜の化学構造識別能に着目し、麻酔薬とキラルな生体膜の機序的相互作用を解析するとともに、その臨床的意義の解明を目的として本研究に着手した。平成29年度は、研究の根幹を成す実験系の確立という基礎実験に加えてその応用実験も行い、以下のような成果を得た。 (1)神経細胞や心筋細胞の膜脂質組成に準じたリポソーム懸濁液を調製する実験系を考案し、それを確立するために種々の条件を検討した。そして、惹起する膜流動性変化を測定することで、麻酔薬と生体膜の相互作用が解析できる実験法を開発した。さらに、種々のステロールの膜組成を増加させることにより生体膜のキラリティーを高めて、一方の薬物エナンチオマーに選択的で立体異性体の識別も可能な膜相互作用解析法に発展させた。 (2)本研究の立案段階で想定したよりも順調に研究が進んだため、平成30年度以降に計画した応用実験を前倒しして行った。局所麻酔薬や麻酔関連薬の立体異性体(ブピバカイン、ロピバカイン、ケタミン等)に加え、検討対象を抗炎症薬、フラボノイド、テルペノイドにまで広げて生体膜相互作用に基づく立体異性体の識別を検証した。40 mol%のコレステロールを含むモデル膜は全被験薬物の立体異性体を識別し、その膜作用強度は臨床効果や薬理活性とも相関した。さらに、膜コレステロールをそのエピマーに置き換えることで、コレステロールの3位のβ-水酸基がエナンチオマー選択性に関与している可能性を明らかにした。これらの結果に基づき、脂質二重層における立体的膜相互作用の仮説的機序を提唱した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の成否を左右する実験系を確立し、その方法論的有用性を実証した。その結果、研究計画では平成30年度に予定していた応用実験について、生体膜相互作用に関する検討を局所麻酔薬、静脈麻酔薬、β1遮断薬へと段階的に進めることができた。それら一連の実験では、研究立案時に想定した結果と違わないデータも続々と得られた。そして、初年度から、研究成果を国際会議ならびに国際誌に発表することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画よりも研究に大きな進展があったため、下記の応用実験の追試ならびに残りの検討を行う。 平成30年度の研究実施計画 生体膜相互作用に着目して麻酔薬の薬理学的多様性を考察する目的で、麻酔関連薬としてβ1遮断薬や鎮静薬(応用実験Ⅰ)ならびに鎮痛薬や抗炎症薬(応用実験Ⅱ)に関する膜実験を展開する。平成29年度内に応用実験Ⅰの多くが終了したが、より詳細かつ再現性の高いデータの入手に努める。さらに、平成31年度に計画していた植物活性成分についても予備的に実験する。 平成31年度の研究実施計画 膜相互作用の研究対象を広げ、化学構造―膜活性―薬理活性相関を解析する。全年度を通して研究を総括し、その成果を公表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成29年度は、当初の計画以上に研究が進展したことから、研究成果を論文にまとめて公表することが可能となった。そのため、経費の前倒し支払請求を行った。蓄積した実験データに基づくResearch Paperならびに本研究コンセプトを含むReview Paperを国際誌に投稿した結果、Peer Reviewを経て両論文ともにacceptされ、平成29年度内に発行された。そのうち1報がSpecial Issueに採択されて掲載費減額の優遇を受け、経費が予想額より低く抑えられたために次年度使用額が生じた。
(使用計画)上記の理由から生じた次年度使用額(86,913円)は、平成30年度の研究成果公表に要する経費に充てる予定である。
|