研究課題/領域番号 |
17K11925
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
栗田 賢一 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (40133483)
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研究分担者 |
本田 雅規 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (70361623)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 末梢神経 / 間葉系幹細胞 / 末梢神経再生 / 下歯槽神経 / 坐骨神経 |
研究実績の概要 |
初年度は、三つの動物実験モデル、1.坐骨神経挫滅モデル、2.坐骨神経切除モデル、3.下歯槽神経切除モデルの作製を計画し、前半にそれらのモデルの作製に成功した。坐骨神経挫滅モデルについては、動脈クリップを使用し、神経を圧挫させた。坐骨神経切除モデルは、坐骨神経を剖出後10mmの神経を切除した。また10mm切除モデルでは切除部位が自然に架橋しないことも確認した。下歯槽神経切除モデルは、下顎皮膚を切開し、下顎骨を明示した後、下顎骨を歯科用回転切削器具にて切削して下歯槽神経を剖出し、切除を行った。 次に、移植する細胞の準備を行った。倫理委員会の承認後、本大学附属病院歯科口腔外科外来で同意を得られた患者さんから得た抜去歯より歯髄を摘出し、ヒト歯髄幹細胞を採取・培養した。また、共同研究の契約を行った株式会社セルテクノロジーよりヒト歯髄細胞を提供していただき、移植に適した継代数、移植する細胞数を検討した。 今年度の後半には、動脈クリップを用いて挫滅させた坐骨神経に培養増殖させたヒト歯髄幹細胞を局所投与する実験を行った。担体には酸化セルロースを用いた。実験の結果、運動機能・組織学的解析・免疫組織学的解析により、神経挫滅部位へヒト歯髄幹細胞を移植することの有用性を確認した。本研究については、Journal of Oral Scienceに掲載される。 次に、坐骨神経切除後の神経再生に有効な神経チューブの開発に着手した。神経チューブはコラーゲン線維で作製し、そのコラーゲン線維に配向性をもたせることによる、神経再生の有効性を確認中である。また中空性のチューブとチューブ内をコラーゲン製のフィラメントで満たしたチューブでの神経再生能の違いも検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、本研究の目的となる「歯髄細胞の有用性」を確認するため、動物実験モデルの作製に着手した。動物実験モデルとしてラットの坐骨神経挫滅モデル、ラットの坐骨神経切除モデル、ラットの下歯槽神経切除モデルの確立はほぼできたと考えている。その理由としては、坐骨神経挫滅後の運動機能と組織学的解析において、運動機能の低下、筋肉の重量の低下、神経線維の空砲変性などを確認できたことにある。坐骨神経切除モデルにおいては、切除後、神経が再生して、繋がらないことを肉眼的に確認した。下歯槽神経切除モデルにおいても、神経線維の連続性が遮断されることを肉眼的に確認した。 移植用のヒト歯髄幹細胞については採取方法と移植に必要な細胞数を確保することができているため、現在移植に使用できる状況にある。すでに、坐骨神経挫滅モデルにおいては、ヒト歯髄幹細胞を局所投与して、運動機能等が回復することを確認できた。この実験モデルにはついては、計画通りに進んでいると考えている。 坐骨神経と下歯槽神経の切除モデルでは、細胞の移植だけでは、神経線維の連続性が回復できないことが考えられるので、神経チューブを併用することになる。そこで、コラーゲン線維を配向させた神経チューブの作製を共同研究先に依頼し、その神経チューブを移植したところ、留置後2週間で神経線維の連続性が回復することを確認した。また同時期におけるvon Frey testでも、健側とほぼ同程度の知覚の回復が確認できた。次年度は、早期に神経線維が回復するようチューブの改良を行う計画を考えている。 ヒト歯髄幹細胞の培養については株式会社セルテクノロジーより供給していただいたヒト歯髄幹細胞を適切に培養する手技を習得した。現在、抜去歯からの歯髄採取および歯髄幹細胞の培養につき適切な手技を習得中である。次年度は歯髄幹細胞の全身投与方法について検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
歯髄幹細胞全身投与の際にコラーゲンチューブを併用する方法を考案し、コラーゲンチューブ単体での神経再生能も確認している。今後は神経チューブ移植後、継時的にさらに詳しく機能的、組織学的解析を行い、より多くのデータを収集する必要があると考える。今後は現在使用しているコラーゲンチューブとは構造が異なるチューブを幾つか作製して移植を行い、その結果をもとに神経再生能が高いコラーゲンチューブを開発する計画を立てている。 より研究を臨床応用に近づけるためにために、ヒト抜去歯より歯髄を採取し、歯髄幹細胞を培養して、ラットに移植する実験を進める必要がある。抜去歯の入手先としては倫理委員会の承認を得られたため本大学附属病院の口腔外科で抜歯した歯牙を患者に同意を得た上で入手することとした。歯髄の採取方法、採取した歯髄から歯髄幹細胞を培養し、移植するのに十分な細胞数を確保する技術を取得する必要がある。 ラット下歯槽神経切除モデルの神経再生を確認する実験ではコラーゲンチューブを担体として、ヒト歯髄幹細胞を切除部に移植する予定であるが、歯髄幹細胞より神経再生能が高いと考えられるシュワン細胞も移植しその神経再生能を確認する計画を立てている。そのため、ヒト歯髄幹細胞を神経堤細胞培地で培養し、シュワン細胞に分化させる方法を確立するためにin vivoの実験も行う必要があると考える。 またラットにヒト歯髄幹細胞を全身投与する方法についても検討する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はラット下歯槽神経切除モデル、ラット坐骨神経挫滅モデル、ラット坐骨神経切除モデルにおいて、歯髄幹細胞の局所投与を行い、解析を行ったが、静脈からの全身投与は終了できなかった。また、コラーゲンチューブの留置も行い、組織学的解析は終了したが、予定していた分子生物学的解析及び運動機能解析については、次年度に繰り越す運びとなった。 次年度は上記に説明したラットへの歯髄幹細胞全身投与の方法の検討、コラーゲンチューブ留置後の分子生物的解析および運動機能解析に次年度に繰り越した研究費を使用する予定である。なお、実験については解析の手技を既に習得しているので、実行可能と考えている。
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