研究課題/領域番号 |
17K11936
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊藤 慎将 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (40633706)
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研究分担者 |
黒坂 寛 大阪大学, 歯学部附属病院, 講師 (20509369)
山城 隆 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (70294428)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 口唇口蓋裂 / 先天奇形 / 発生生物学 / ノックアウトマウス / DLC1 |
研究実績の概要 |
口唇口蓋裂は種々の遺伝子異常が関与する最も頻度の高い先天異常の一つである。本疾患は哺乳障害、鼻咽腔閉鎖不全、歯牙の欠如を来たし、発音障害、顎顔面発育異常をまねく。歯科領域との関わりが深い疾患であるが、歯科矯正学はその治療の中心的役割を担う分野である。口蓋裂の原因は多岐に及ぶが、近年遺伝子改変動物を利用した研究の発展から、飛躍的に口蓋裂発症に関わる遺伝子が報告されており、徐々に細かい分子病態の解明に迫りつつある。しかし未知の遺伝子も数多く存在し、またそれぞれの因子を繋ぐ分子機構は依然として未解明の部分も多い。 複数の口唇口蓋裂家系から予備解析を行っており、いくつかの遺伝子について既にピックアップが終了している。その中でも異なる家族間で共通した変異が見つかった遺伝子であるDLC1 という遺伝子に着目したところ、その変異は同一のエキソンの非常に近接した領域に生じていた。この遺伝子はARHGAP7 としても知られており、これまでに発癌に関わる遺伝子として報告は多数存在するが、顎口腔顔面部の形成との関わりについては知られていない。更に興味深い事に患者に見つかった変異はDLC1のIsoform5に特異的なexon1に存在し、同塩基変異は進化的にも高い保存性を示す場所においてアミノ酸置換を起こす事を見出した。また、近傍領域にはアクティブなエンハンサー領域のマーカーであるH3K27Acの免疫沈降で高いシグナルを示していた。これらの事は同領域がゲノムの中で蛋白質をコードしながら転写調節領域として働くExonic enhancerとして働いている事を示唆している。更に詳細な解析により同部領域は多くの転写因子が結合している部位である事が明らかとなり、特に顎顔面領域の発生に必要不可欠な転写因子TFAP2Aが頭部神経堤細胞において同部に結合している事がCHIP-seqにより明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DLC1 ノックアウトマウスは既に報告があるが、胎生10.5日齢で死亡する。このことはDLC1 が発生において非常に重要な役割を果たしている可能性を示唆している。胎生致死を回避し、出生後の顎顔面領域の表現型を解析するため、家族性口唇口蓋裂と同じ塩基配列を持つDLC1変異マウスを、本学動物実験施設との共同研究にて作製した。 解剖学的解析から同遺伝子改変マウスの一部に口蓋裂が認められる事を見出した。口蓋裂により、ノックアウトマウスの口蓋骨は一部欠損していた。 DLC1は胎生11.5日齢の前頭鼻突起および神経管の上皮に発現していた。また、TFAP2AおよびDLC1は神経管および上顎突起の神経堤由来細胞に共発現していた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き口唇口蓋裂の発生機序について解析を進める。ノックアウトマウスにおいて変動がみられるシグナル経路について、in vitro解析や、器官培養系実験手法を用いて、表現系のレスキュー実験等を行う。
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