研究課題/領域番号 |
17K11939
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北原 亨 九州大学, 大学病院, 講師 (00274473)
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研究分担者 |
飯久保 正弘 東北大学, 歯学研究科, 講師 (80302157)
湯浅 賢治 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (40136510)
高橋 一郎 九州大学, 歯学研究院, 教授 (70241643)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 筋機能MRI / MRS / 咀嚼筋疲労 / 顎機能障害 |
研究実績の概要 |
咀嚼筋疲労は顎機能障害の一般的プロブレムであり,その発症継続化因子の1つにクレンチング(咬みしめ)がある。咀嚼筋疲労は医療のエンドポイントである「生活の質の向上」に大きく関わっているにも関わらず,客観的かつ定量的な評価法は乏しい。 顎機能障害を呈する顎変形症患者を対象とした筋機能MRIにおいて、仮説1-1:治療前の筋機能MRIにおいて,持続かみしめ前後の咀嚼筋の横緩和時間(T2 値)は一過性に上昇する。また,左右側でT2 値に有意差がある。 仮説1-2:31P-MRSを用いて評価した場合,持続かみしめ前後の咀嚼筋の高エネルギーリン酸化合物のうち、PCrは一過性に減少し、 Piは一過性に増加する。また,左右側で信号強度に有意差がある。 仮説2-1:顎機能障害患者の治療後は,横緩和時間(T2 値)は治療前に比べ減少を示し,左右差を認めない。仮説2-2:顎機能障害患者の治療後は,高エネルギーリン酸化合物のうち、PCrは治療前に比べ増加を示しPiは治療前に比べ減少を示し,左右差は認めない。 平成29年度は、研究分担者の所属する撮影施設設置の1.5TのMRI装置(Intera Achieva、フィリップス社製)を用いて、外側翼突筋を対象とした筋機能MRI(T2時間)およびMRS(PCr, Pi)の試験的データ取得を予備的に行った。病院臨床研究倫理審査委員会に本研究を申請し、対象患者の選定や説明と同意、診断、評価など研究手法の妥当性の受審の準備を進め、倫理審査委員会承認後は、介入研究を開始予定である。 患者にとって侵襲のない検査法である筋機能MRIおよびMRSを用いて,生理学的情報・生化学的情報を同時に取得し比較することができる,分子イメージングによる新たな画像診断手法は妥当であるかを検証し,咀嚼筋疲労診断法を確立することは重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
顎機能障害を伴う咀嚼筋疲労を,筋機能MRI・31P-MRSを用いた分子イメージングでとらえる。主要エンドポイントはクレアチンリン酸(PCr)信号強度、無機リン(Pi)信号強度・横緩和時間(T2値)とする。外側翼突筋は臼歯の早期接触・干渉などがあると、安静のはずの外側翼突筋は一気に緊張し、他の閉口筋も活性が上昇し、筋の痛み、違和感、疲労などの筋症状が発生するリスクが高まる。平成29年度は実験的かみしめにより外側翼突筋に急性疲労を誘発し,疲労による筋細胞内の代謝物の濃度を非侵襲的に経時観察し,分子機能情報を取得の可否を検証した。 過去の多くの研究によれば、上頭と下頭は活動する時期が相反しており上頭は閉口相と咬合相に、下頭は開口相に活動するという報告が多数である。そのため外側翼突筋上頭に着目し実験を行った。筋機能MRIに関しては外側翼突筋などの深部筋活動であっても、高い空間分解能を有する特性のため非侵襲的に定量評価が可能であり、健常被験者3名それぞれのmfMRIによる咬筋と外側翼突筋T2時間の推移を検討したところ、外側翼突筋上頭のT2時間は比較的高値を示す結果が得られた。 一方、外側翼突筋上頭対象の31P-MRSに関して、直径10cm小型コイルでは深度に対する感度能力の不足が考慮されたため、信号収集用リンコイル(直径17cm)を用いて、外側翼突筋上頭領域に興味領域設定が逸脱することが無いよう最大限配慮しながら位置づけし試験的信号取得を行った。その結果、外側翼突筋上頭を対象筋とした31P-MRSによるクレアチンリン酸(PCr)信号強度、無機リン(Pi)信号取得は困難との結論に至った。
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今後の研究の推進方策 |
近年、咀嚼筋の痛みに対して、超音波装置やMR装置を用いた画像評価の報告は散見されるが、咀嚼筋疲労の客観的な診断法はいまだ確立されていないのが現状である。患者にとって侵襲のない検査法である筋機能MRIおよびMRSを用いて,比較的断面積の小さい咀嚼筋において、分子イメージングによる新たな画像診断手法が妥当であるかを検証し、咀嚼筋疲労診断法確立をめざす。 我々のこれまでの研究では、非対称を示さない健常者咬筋では、T2時間、PCrならびにPi信号強度に関して、ほぼ左右差が認められないことが検証されている。顎機能障害を呈する顎変形症患者を被験対象としてリクルートし、咬筋、側頭筋、顎二腹筋等に被験筋を絞って、筋機能MRIおよびMRSデータ取得を進める。 本大学病院の顎変形症患者を対象に、撮影協力施設である他病院研究協力施設で臨床研究のための検査をしていただくプロセスが整備された後、資料取得は、共分散行列による80%検出力備えるサンプルサイズを算出の後、その数に達し次第終了とする。31P-MRSならびに筋機能MRIデータの収集は、臨床研究に参加していただく被験者の便宜を考える上で同一日採得を考えており、40分ほどの休息を挿むことにより研究遂行上の支障はないと考えている。臨床研究に参加すると交通費がかかったり、勤めを休んだりする必要があることから、被験者の方に経済的負担を強いるときがあるため、これらの負担を軽減するために支払われる「負担軽減費」の利用を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 平成29年度は、研究対象患者の選定や説明と同意、診断、評価など研究手法の妥当性検証のために、病院臨床研究倫理審査委員会の受審の準備を進め、並行して、試験的に外側翼突筋上頭領域の筋機能MRI・31P-MRSを用いた分子イメージングによるデータ取得可否の検証作業を進めてきた。 倫理審査委員会承認後の、介入研究の開始に伴う被験者の負担を軽減のための「負担軽減費」の利用開始が平成30年度以降となったため、次年度使用額が生じた。 使用計画 臨床研究に参加すると交通費がかかったり、勤めを休んだりする必要があることから、被験者の方に経済的負担を強いるときがあるため、これらの負担を軽減するため支払われる「被験者負担軽減費」の利用に、次年度使用予算を充てる。病院臨床試験倫理審査委員会承認後には、臨床研究のための筋機能MRIおよびMRS検査への参加同意が得られた、顎機能障害を呈する顎変形症患者の集積に勤め、1か月に一人のペースを目標とする。また随時分析定量を進める。
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