SATB2(Special AT-rich sequence-binding protein 2)は、マトリックス結合領域結合タンパク質であり、SATB2は、骨形成分化に必要な遺伝子転写を調節することにより、骨格発達に影響を与えることが報告されている。そのため、SATB2の変異によって引き起こされるSATB2関連症候群は、脛骨の弓、骨折率の高い骨ミネラル密度の低下、骨粗しょう症、口蓋裂、小顎症、および上顎形成不全を引き起こすことが報告されている。本研究では、SATB2に変異を見出したSATB2関連症候群患者の抜去歯牙から樹立した歯髄幹細胞における分化能について検討を行った。 SATB2に変異を有している歯髄幹細胞では(SATB2)、SATB2に変異がない歯髄幹細胞(Control)と比較し、細胞の増殖能が増加していることが判明した。さらにSATB2の変異が骨形成分化にどのように影響するかを調査するために、in vitro分化アッセイを行い、組織学(石灰化をさらに定量化するために、アリザリンをウェルから抽出し、405 nmでその吸収を測定)と遺伝子発現(qPCR)によって評価したところ、SATB2では、Controlと比較し石灰化が亢進していた。しかし、SATB2では骨基質遺伝子の発現が低下していることが判明した。 歯髄幹細胞におけるSATB2の変異は、無秩序な細胞増殖とその後の分化の両方に関与していることを示しており、正常な石灰化とは異なる成熟が不十分な石灰化を引き起こしている可能性が示唆された。以上の結果から、SAS患者における骨病変と歯の異常は、SATB2の変異による幹細胞の増殖と分化の両方のプロセスに参加することで引き起こされていると推測された。
|