研究課題
昨年度は、マスト細胞株RBL-2H3に口腔レンサ球菌を感染させると細胞死が誘導されること、そして、その細胞死は菌が産生するmMレベルの過酸化水素の作用であることを明らかにした.本年度は、まず、この細胞死がアポトーシスによるものであるのかどうかを検討するところからスタートした.細胞核の蛍光染色像はアポトーシスを示唆するものであったが、アポトーシスを特異的に検出するAnnexin V蛍光染色キットを用いて調べたところ、意外なことにアポトーシスを否定する結果が得られた.アポトーシスのトリガーとなるカスパーゼそのものが何らかのプロテアーゼにより非特異的に分解されてしまうという知見と考え合わせると、過酸化水素がマスト細胞に対して未知の細胞死プロセスを引き起こしている可能性が高いと考えられた.また、本年度は、マウスを用いた花粉症モデル実験を開始した.マウス花粉症モデルに関しては多くの論文が発表されているが、それぞれの研究グループによって用いる花粉抗原、マウス系統、免疫方法など実験系に相当な差異がある.これらの報告を参照しつつ、何通りかの実験を行ったが、マウスに花粉症を誘発させるためには様々な変更が必要であった.最終的にはマウスの8割以上に花粉症を誘発させることに成功し、花粉症モデルとして実験に供することが可能になった.なお、本年度は、6月に大阪北部でM6超の地震が発生し、本学もそれなりの被害を受けて実験が出来ない時期があったことを付記しておきたい.最終年度は、主に、このマウス花粉症モデルに対する口腔レンサ球菌感染の影響を調べる予定である.
2: おおむね順調に進展している
口腔レンサ球菌が産生する過酸化水素によって誘導されるマスト細胞の細胞死がアポトーシスではなく、未知の細胞死機構が存在する可能性を示唆する結果が得られた.これは貴重な知見であると考えている.また、マウス花粉症モデルに関しては、必ずしも論文に記載された方法通りでうまく行くとは限らないことが分かった.様々な変更を行い、花粉症モデルとして実験に供するに十分な感作効率が得られる条件を見出すことができた.
平成31年度(最終年度)は、過酸化水素によるマスト細胞の細胞死機構をアポトーシス以外の面から探求する.また、並行して、平成30年度に確立したマウス花粉症モデルを用いて、口腔レンサ球菌の過酸化水素が花粉症発症に及ぼす影響を調べる予定である.
次年度に繰り越す金額は約12万円となった.この理由のひとつは、平成30年6月に発生した大阪北部地震(M6.1:大阪大学も震度5)の被害により、一時期実験が出来なかったためである.このため、本年度は無理に予定の研究費を使い切る必要はないと判断した.
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