研究課題
これまでに、齲蝕の主要な病原細菌である Streptococcus mutans の中で、コラーゲン結合能を有する菌株が、感染性心内膜炎の発症や、脳出血の悪化を引き起こすメカニズムの一端を明らかにしてきたが、腎臓への影響に関しては未検討であった。IgA 腎症は慢性糸球体腎炎の中で最も発症頻度は高く、小児期や思春期でもみられる疾患であるが、発症機序は不明な点が多い。これまでの臨床研究において、IgA 腎症患者口腔内には、コラーゲン結合タンパク(Cnm)を菌体表層に発現する S. mutans 株の保有率が健常者と比較して有意に高いことを明らかにしてきた。さらに、IgA 腎症患者群のうち、Cnm 陽性 S. mutans 株を口腔内に保有している者では、Cnm 陰性 S. mutans 株保有群と比較して、齲蝕経験歯数およびタンパク尿の値が有意に高いことを示してきた。本研究では、IgA 腎症患者口腔内より分離した Cnm 陽性 S. mutans 株の発症への関与を検討するため、ラット齲蝕モデルを用いて実験を行った。供試菌をラット口腔内に定着させ、齲蝕を誘発させた後、様々な時期において腎臓組織を病理組織学的に評価した。その結果、菌の定着後 24 週におけるラット腎臓において、IgA 抗体および C3 抗体を用いた免疫染色を行ったところ、腎臓糸球体において IgA および C3 の沈着が確認され始め、菌定着後 32 週ではさらにそれらの現象が顕著に認められる結果となった。本研究の結果から、Cnm 陽性 S. mutans 株により口腔内で齲蝕を誘発させ長期間飼育を行ったラットにおいて、腎臓での IgA や C3 の沈着が認められたことは、菌が血液中に持続的に侵入することにより何らかの免疫異常を生じることにより、IgA 腎症様腎炎を発症させている可能性が示唆された。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Scientific Reports
巻: 9(1) ページ: 20130
10.1038/s41598-019-56679-2