研究実績の概要 |
近年小児がんサバイバーの長期フォローアップ研究から、さまざまな臓器に晩期合併症の発症があり、歯科においても歯胚欠如や歯の形成異常、齲蝕の増加などのリスクが高まることが明らかとなっている。本研究では小児がん治療の歯の形成に与える影響について特に抗腫瘍薬の齲蝕原因菌に対する影響を調べるとともに、歯科疾患の予防についても検討を加えることにした。今年度は、前年度から継続して齲蝕原因菌に対する抗腫瘍薬と含嗽薬の影響をStreptococcus mutans MT8148株を用いて調べた。 【対象と方法】供試菌 Streptococcus mutans MT8148株(MS菌)とし、作用薬剤は小児がん治療に用いられる作用機序の異なる抗腫瘍薬を選択した。対象薬剤は、アルキル化剤,ビンカアルカロイド、葉酸代謝拮抗薬、プリン代謝拮抗薬とした。最終年度は、数種類の含嗽薬(ポビイドンヨード、アズレンスルホン酸ナトリウム水和物)を加えた。各薬剤に濃度勾配を付与して調整し、播種用にMS菌の菌量を調整後、薬剤の入ったプレートに播種した。24時間後、マイクロプレートリーダーにて吸光度測定を行った(MIC測定)。その結果より、MS平面寒天培地に菌液を50μlずつ播種し、37℃で培養してMBC濃度を判定した。 【結果】抗腫瘍薬では、S mutans菌に対して、抗菌作用を示すものと無効のものがあり、作用機序による相違が示唆された。また、含嗽薬ではMBCが測定できた。 【考察】抗腫瘍薬の中にはS mutans菌に対して抗菌作用を示す薬剤が認められた。含嗽薬はS mutans菌の増殖に抑制効果を示した。以上の結果から、抗腫瘍薬の口腔内環境の変化に加えて細菌叢にも影響があらわれる可能性が示唆された。しかし、臨床では化学療法が多剤併用で行われるため、口腔細菌層にはさらに複雑な変化が現れると考えられる。
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