研究課題/領域番号 |
17K11995
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
沼部 幸博 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (90198557)
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研究分担者 |
伊藤 弘 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (30184683)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歯肉溝滲出液 / hemoglobin / 歯周組織検査 / bleeding on probing / 歯周病迅速診断 |
研究実績の概要 |
歯周病が発症しているにもかかわらず,その自覚症状が明確でないために放置し,重症化させているケースが多い。よって現在の歯周治療学の考え方では,従来 型の検査・診断・治療法に加え,より早期に歯周病の発症を探知する検査法を開発し,従来の検査結果に加え,新たな視点から得られる検査データから,患者に合わせた最適な治療を提供する必要性がある。 特に初診の歯周病診断時ではなく,歯周病の治療がある程度進行した後の病状安定期の再発予防管理(サポーティブ治療:SPT)では,比較的患者の来院間隔が長いことが多いため,来院時の検査には,今後の病変再発または進行のリスク判定(重傷化の危険性の予測)という歯周病診断の重要な項目を含める必要がある。 しかし従来の歯周病検査は,歯周組織破壊の結果や明確に進行中の病態の状況把握には優れるが,より早く病態変化の探知ができないため,歯周病発症の比較的早期の兆候を探知可能な検査システム開発が急務であった。 そこで本研究では,これまで申請者らの蓄積してきたGCFの基礎・臨床研究の経験や知識と,申請者らの開発したGCF中の潜血(遊離ヘモグロビン)を検知可能な 歯周病迅速診断キットを用いて,歯周病発症または再発の早期診断・早期治療技術を開発し,歯周病予知および再発予防に向けての方略を構築することを目的に研究を進めてきている。 本年度は2年目で、初年度後半から開始した,患者の協力下でのGCFの試料採取と解析が続けられている。特に歯周病迅速診断キットの使用方法のスキルは向上し,安定した試料採取が可能となっているとともに,その判定時間は数分であり,性能通りの結果を得ることができるようになっている。安定したキットの運用方法を確定できた成果は大きく,最終年度へと研究を更に進める準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度後半から30年度にかけて,歯周組織の健常者および歯周治療が終了してSPTに移行した患者の協力を得て,健常部位と病状安定部位における歯肉溝滲出液(以下GCF)成分動態の検索を行っている。GCF中の潜血(遊離ヘモグロビン:以下Hb)を探知する歯周病迅速診断キットでは,その濃度により,イムノクロマトグラフィーによる検査紙の抗体とGCF中Hbとが反応して発現する赤のバンドの発色量が変化して行く。その状態をデンシトメーターで解析するとともにそこからHb量を算出し,GCF中の歯周病診断の炎症マーカーとHb量,従来の歯周病臨床パラメータとの関連を検討した。継続的に健常者,SPT移行者の病状安定部位を1か月に1回から2回程度検索した。具体的には,被験者は研究参加に同意した歯周組織健常者5名(3年目までには10名予定),歯周治療後の病状安定期患者(SPT患者)10名(3年目までには20名予定)とし,対象部位数は各被験者の単根歯で,1口腔3部位ずつ,すなわち健常者合計15部位,SPT患者合計30部位とした。医療面接と従来の歯周病検査により,患者の医療情報と歯周組織の情報収集を行った。被験者からのGCF採取は,滅菌ペリオペーパーをポケット内に30秒間挿入することで行い,液量を測定するペリオトロンにてGCF量を測定後,それを緩衝液(PBS)に浸漬,遠心分離後の上清をGCF成分解析試料とした。その試料にキット試験紙を浸漬し,発色の状態を観察した。さらにキットの試験紙に現れたイムノクロマトグラフィー発色をデンシトメータで計測,PC内に情報を集積した。これらのデータ蓄積は3年目の前半まで継続し,最後の期間で解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度以降も,基本的に試料の採取とデータ蓄積を継続し,その後データの解析に着手する。すなわち,歯周組織の健常者と歯周治療が終了しSPT に移行した患者の協力を得,健常部位と病状安定部位を対象としてその部位の歯肉溝滲出液(GCF)成分動態の検索を長期的に行う (1か月に2回程度検索)。GCF中のHbを探知する歯周病迅速診断キットではその濃度により,イムノクロマトグラフィーによる検査紙の抗体とGCF中のHbとが反応して発現する赤のバンドの発色量が変化する。その状態をデンシトメーターにより解析し,遊離ヘモグロビン量を算出するとともに,GCF中の歯周病診断マーカーとして有用性が示されている他の炎症マーカー(AST)などとHb量,従来の歯周病臨床パラメータとの関連をも加えて検討する。 最終年度として,GCF中のHbを検知する歯周病迅速診断キットの性能評価とそれを用いた歯周病初期症状の指標に関する検討を行う。すなわち最終年度は,これらの蓄積された解析データをまとめ,今回開発したGCF中の潜血(遊離ヘモグロビン)を検知する歯周病迅速診断キットによる歯周病再発診断技術の有用性を検証するとともに,より具体的に歯周病再発予防に対して本キットを応用する方略策定を行う。すなわち,歯周組織検査の主流である,歯周プローブを用いたプロービングにより歯肉の炎症の状態を評価するこれまでの方法に加えて,検査部位への侵襲が少ない本GCF検査法の併用が,どの程度病態診断の精度を高めるかまでを検証したいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度と同じ,年度当初の予定より被験者数および試料採取部位数が少なかったため,その解析に伴う試薬や器具代に関する支出が少なくなったことが原因である。これは前年度に使用キットの臨床での使用方法の確定に予想外の時間を要し計画がずれ込んだこと,本年度の試料採取の数が予定よりも少なかったこと,さらに予想されていた,正確な試料採取法の確定に必要な試行錯誤によるキットの消費量が少なかったことが背景要因としてあった。 しかし,本年度後半は順調に資料の採取が進んでいるとともに,来年度は色差の検索のための機器も増やす予定であり,必要な支出が順調になされる予定である。
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