東日本大震災を契機に,医療クラウドに構築する個人識別を目的とした歯式データベースの必要性が言われている。しかし、歯科情報の収集方法や大規模データベースに関する基礎的研究が行われていないため、本研究では大規模歯式データベースでの個人識別に不可欠な、(1) 大規模歯式データベースでの個人識別に用いる歯式マトリックスの定義と(2) 深層学習による個人識別のニューラルネットワーク作成の基礎的研究を目的としている。 現状では、口腔内画像の歯列情報から深層学習による歯の自動認識を試み、良好な認識率が得られている。さらに、画像認識による歯種分類の判断根拠を可視化をGradient-weighted Class Activation Mapping(Grad-CAM)で行った結果、ニューラルネットワークモデルのSSD512モデルで解剖学的な特徴を捉えていることが明らかになり、歯式情報認識における歯種分類の関心領域は解剖学的な特徴領域と類似していることから、深層学習による歯の自動認識を使用する根拠が得られた。 大規模歯式データベースでの個人識別に用いる歯式マトリックスの定義については、厚生労働省標準規格として策定された口腔診査情報標準コードに準ずるコード体系を流用することとした。大規模歯式データベースでの個人識別ニューラルネットワークを作成する場合、口腔診査情報標準コードの入力機関情報レコード、個人識別情報コード、部位レコードの一部に可変長データが混在し、一部が省略可能なコードも存在することから、一患者に対するデータが常に可変長となってしまうことが明らかになった。このようなデータ構造に対して深層学習によるニューラルネットワーク作成ためには、可変長データが扱えて、自然言語処理が可能なLSTM (Long Short-Term Memory) が適切であることが明らかになった。
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