研究実績の概要 |
口腔内常在菌は、口腔内で病原性を発揮するだけではなく、抜歯等の観血的な処置によって血液中に侵入することが知られている。菌血症は、健常者では一過性であるが、ある種の心疾患を有する対象では心臓の弁膜や心内膜に血小板やフィブリンと細菌の塊を形成し、感染性心内膜炎の発症につながることがある。一方で、菌血症は侵襲的な処置だけではなく、日常の口腔清掃によっても度々生じている可能性があるとされており、口腔細菌の血液中への侵入は、一般に考えられているよりも高頻度であることが想定される。既に口腔内常在菌が糖尿病、誤嚥性肺炎、低体重児出産、早産、関節リウマチなどの全身疾患と関連があることが近年の研究で明らかにされつつあるが、遺伝子解析によるクローナリティーを証明した報告は少ない。 本研究では、心臓弁膜症患者における手術時の摘出弁組織と口腔内・血中から検出された菌が同一クローンであるかの検討を行い、周術期における口腔内管理の有効性を検証することを目的とし研究を進めた。 心臓弁膜症患者における手術時の摘出弁組織、同一患者の口腔内プラークから、ビーズ破砕法を取り入れたDNA抽出法で、DNAを回収する手法を確立した。さらに、心臓弁検体5症例について次世代シーケンサーを用いたメタゲノムのショットガンシーケンス解析を行ったところ、Propionibacteriaceae属の細菌種が同定された。また、心臓弁膜症患者において、口腔内管理を行うことにより入院日数の減少傾向があることと、術後の肺炎の発症を有意に予防することを明らかとした(Yoshiba S, et al. J of The Japanese Stomatological Society 69: 22-28, 2020)。現在、これらの結果を論文にまとめて投稿中である。
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