研究課題/領域番号 |
17K12022
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
川戸 貴行 日本大学, 歯学部, 教授 (50386075)
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研究分担者 |
前野 正夫 日本大学, 歯学部, 特任教授 (60147618) [辞退]
中井 久美子 日本大学, 歯学部, 助教 (50736725)
田中 秀樹 日本大学, 歯学部, 准教授 (90434076)
森田 十誉子 公益財団法人ライオン歯科衛生研究所(研究部研究開発室), 研究部研究開発室, 主任研究員 (00597247)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歯周病 / メタボリックシンドローム / 肥満 / 脂肪細胞 / 細胞外基質タンパク / 血管新生因子 |
研究実績の概要 |
細胞生物学研究では,脂肪細胞へ誘導培養した3T3-L1細胞をCRPで刺激して,細胞外基質タンパクの発現を調べた。その結果,CRP刺激で複数のコラーゲン性および非コラーゲン性タンパクの発現増加が認められた。本結果から,CRPは脂肪細胞の細胞外基質タンパクの発現を誘導し,脂肪組織の線維化を促進する可能性が考えられた。なお,CRP刺激で増加した細胞外基質タンパクには,研究計画時に脂肪組織の悪玉化との関連で着目したコラーゲンVIは含まれていなかった。次に,1年目の研究で検討した炎症サイトカイン刺激の影響について,3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化度に着目して調べた。脂肪細胞への分化の初期段階の3T3-L1細胞を炎症性サイトカインで刺激すると,複数の血管新生因子の発現増加が認められた。本結果から,炎症性サイトカインは,分化初期の脂肪細胞の血管新生因子の発現を増加し,脂肪組織の血管の新生を誘導すると考えられた。これら一連の細胞生物学研究から,歯周病などの慢性炎症の罹患で増加する炎症性因子は,脂肪細胞の血管新生因子と細胞外基質タンパクの発現パターンを変化させて,脂肪組織の増加と線維化を介して悪玉化を修飾する可能性が示唆された。また,歯周病における骨吸収の機序を調べた関連実験で,圧迫力で分化が促進した破骨細胞では無機質の骨吸収機能が亢進することを明らかにした。 疫学研究では,非肥満者を対象とした追跡コホート研究を実施した。某事業所で医科と歯科の健康診断を受診した者の中で追跡開始時にBMI値25以下の者を分析対象として,歯周ポケットの保有と4年後のメタボリックシンドローム指標の陽性化を分析した。その結果,4年後の高血圧の発症と追跡開始時の歯周ポケットの保有との関連性が認められた。一方で,その他の指標の陽性化との関連性ならびに2つ以上の指標が重複しての陽性化との関連性は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞生物学研究,疫学研究ともに概ね計画のとおりに実施されているが,得られた結果の一部は,研究計画時に予想したものと異なった。 細胞生物学研究では,当初,動脈硬化を誘導するアディポサイトカインが脂肪組織から産生される,いわゆる脂肪組織が悪玉化する機序として,脂肪細胞由来のコラーゲンVIによるマクロファージの活性化に着目した研究計画を立案した。しかし,2年目までの研究結果から,脂肪細胞のコラーゲンVI産生に及ぼすCRPと炎症性サイトカイン刺激の影響は,他の細胞外基質タンパク発現に比べて小さい可能性が高まった。そこで,研究1年目で検討した脂肪組織が悪玉化するもう一方の要因である脂肪組織の血管新生に比重を移して研究を実施し,歯周病を想定した炎症性刺激と脂肪組織の血管新生因子の発現との関連性に一定の知見を得た。 また,疫学研究では,1年目の横断研究で示された、非肥満者におけるメタボリックシンドローム指標の重複陽性化と歯周病との関連性は,2年目の追跡研究では確認されなかった。そのため、疫学研究を担当する共同研究者とのミーティングを重ね、分析の方向性を変更するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
1年目と2年目の研究結果を検討し,研究3年目の研究は当初の計画を一部変更して実施する。すなわち,肥満でない者と肥満のみをすでに発症する者では、歯周病が高血糖,高血圧,脂質異常の重複発症に影響する機序が異なるのでは、との視点で研究を進める。 細胞生物学研究では,マクロファージの走化・活性化を調べる実験よりも,血管内皮細胞のtube形成を調べる実験を優先して実施して、脂肪組織の増加に直接影響する血管新生が炎症性刺激で促進する現象を捉えることを試みる。 疫学研究では,3年目に予定していた介入研究の実施を見送り,今一度,肥満に着目して,歯周病の罹患と歯周病の予防行動が肥満発症に及ぼす影響を調べるコホート研究に比重を移す。また,2年目の追跡研究で得られた知見である歯周病がメタボの陽性化に及ぼす影響について,肥満者と非肥満者の違いに着目した分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞生物学研究において、消耗品の多くをキャンペーン期間中に購入したこと、および予想と異なる結果が得られたことに伴い研究計画を変更したことで、残金が生じた。なお、変更した計画の一部は本年度内に実地するに至らなかった。そこで、脂肪細胞の培養上清中の血管新生因子のタンパク発現をELISA法またはWestern blotting法で調べ、未刺激の細胞と炎症性因子で刺激した細胞との間のタンパク発現レベルを比較する。さらに、培養上清を加えたconditioned mediumを用いて血管内皮細胞を培養してtube形成を観察する。これら一連の研究を次年度使用額と平成31年度助成金を合わせて実施する予定である。
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