研究課題/領域番号 |
17K12025
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
富永 徳子 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (90546532)
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研究分担者 |
中原 貴 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (10366768)
石川 博 日本歯科大学, 生命歯学部, 客員教授 (30089784)
酒井 俊 筑波技術大学, 保健科学部, 教授 (30282362)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歯根膜幹細胞 / 歯根膜由来骨格筋細胞 / 心筋梗塞モデルマウス / 歯根膜由来上皮細胞 / 培養液 |
研究実績の概要 |
以前の報告で重症心不全患者に対し下肢由来の自己の骨格筋細胞シートを心虚血部位に移植することで心機能を回復させる再生療法が報告された。また、2020年にはその材料としてiPS細胞を用いた心筋細胞シートの移植が行われた。しかし、細胞源や細胞の安全性に関しては検証の必要があると考えている。 体性幹細胞は、腫瘍化などのリスクが低く、安全性が高いと考えられており、本研究では、再生医療における細胞源として自己の増殖能の高い歯根膜細胞に着目している。申請者は、すでにラット歯根膜由来骨格筋細胞を、ラット臼歯初代培養より分離することに成功しており、さらにその分離した骨格筋細胞は正常核型を維持していた。この細胞を用いて、心疾患モデル動物に移植し、心機能回復を図るという細胞による再生治療の開発を目的とする。 当該年度は、歯根膜細胞から歯根膜由来骨格筋細胞が分化する条件に着目した。歯根膜骨格筋細胞が観察される培養皿には必ず歯根膜由来上皮細胞がコロニー状に観察される。本研究では、この歯根膜由来上皮細胞の分離、同定にも成功しており、この細胞がエナメル芽細胞の特徴を有することも証明した。逆に歯根膜由来上皮細胞が観察されない培養皿には歯根膜由来骨格筋細胞も観察されないことが多い。したがって、歯根膜由来上皮細胞が観察される培養条件が歯根膜由来骨格筋細胞が遊走する培養条件であることが示唆された。その成分は、培養液に必須含な物質であることが示唆された。その物質が減少すると、歯根膜由来上皮細胞は石灰化物を形成することが確認された。その石灰化物は線維芽細胞が骨分化誘導時に形成する石灰化物とは異なるものであることが確認された。今後は、この成分の濃度を変えることにより、歯根膜由来骨格筋細胞の分化を促進するものであるかの証明を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幹細胞を骨格筋細胞へと分化誘導には副腎皮質ホルモン、インスリン、bFGFが用いられることが多い。しかし、本申請は歯根膜由来骨格筋細胞の分離に、誘導物質を全く用いていない。また、歯根膜細胞には骨格筋は存在していないため、歯根膜に存在する幹細胞が分化したと考えている。 今までの計画では、化学物質の濃度に着目していた。しかし、当該年度では歯根膜骨格筋細胞を誘導する成分が培養液に含有する物質である可能性が示唆されたことから、飛躍的な一歩であると申請者は考えている。もしこの可能性が証明されれば、全く成長因子を添加することなく歯根膜骨格筋細胞を分化させる誘導法の確立ができると考えている。また、新たな成果としては、エナメル芽細胞様の特徴を有する歯根膜由来上皮細胞の分離やその細胞が石灰化しにくいにもかかわらず石灰化物を形成する条件を明らかにしたことも挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
心筋梗塞モデル動物の作製、検討を行ってきたが、モデル動物の作製手技の向上が見られないため、今後は疾患モデル動物を購入し実験に用いる予定である。予備飼育1週間後、歯根膜由来骨格筋細胞、ラット歯根膜細胞、生理食塩水の3条件で移植を行う。移植方法としては、細胞をシート状にしたものと、細胞懸濁液にし直接心臓の梗塞部位へ打ち込む方法を検討する。移植4週、8週間後、心臓のサンプルを採取し4%ホルムアルデヒドにて灌流固定後し切片作製をおこなう。切片作製後は、組織学的解析(HE染色、マッソントリクロム染色)と免疫科学染色を行う。解析は切片をオールインワン(KEYENCE)にて撮影後、線維化の面積を計測し比較する。また、免疫染色に血管内皮マーカーであるvon Willebrand抗体を用いて染色し、血管の数を比較する。 また、歯根膜由来骨格筋細胞への分化誘導には培養液中の必須成分の関連性が示唆された。したがって、その成分濃度を検討し誘導法の確立を目指す。得られた研究成果は学会や論文等で発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の計画では、申請時には3年間を予定していたため当該年度が最終年度であった。しかし、当該年度は産前産後の休暇、育児休業による研究期間の中断により次年度使用額が生じた。 今後の使用計画として、本研究は心筋梗塞モデル動物に分離した歯根膜由来骨格筋細胞を移植し治癒を評価する。その移植実験のための動物の購入や評価のための標本作製、抗体の購入に用いる。さらに心臓の機能回復を評価するためには、収縮期と拡張期の心臓壁評価をエコーで行う必要がある。評価には熟達した技術が必要であるため専門の機関での解析を発注予定である。また、歯根膜細胞から歯根膜由来骨格筋が分化する際の培養液の解析などに用いる予定である。
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