研究実績の概要 |
本研究課題では、健常高齢者を対象として、唾液サンプルを採取し、口腔のコアマイクロバイオームの解明を試みた。次世代シーケンサーによる解析では85名の対象者から、1,953,706readsが得られ、Speciesのレベルで1,195菌種が検出された。90%以上の対象者に検出された菌種は37菌種で細菌叢全体の82.6%を占めていた。37菌種の中には、全身の健康状態に悪影響を及ぼす可能性のある菌種が含まれていた。従来、口腔のコアマイクロバイオームは各菌種の検出率で議論されることが多かったが、今後は各細菌の性質、相互作用、バランスを考慮し健常な細菌叢の概念を形成してゆく必要がある。 次世代シーケンサーの普及により、ヒトの細菌叢の網羅的な解析が大きく進歩した。特に口腔の細菌叢は、抗菌性物質を含む洗口剤等が使用可能なため、細菌叢のコントロールが比較的容易である。近年では、口腔の2大疾患である、う蝕、歯周病においても従来う蝕病原性菌、歯周病菌とされていた菌の保菌以上に細菌叢の乱れが疾患の発症に関与していることが示唆されている。さらに、口腔細菌叢が全身の健康状態に大きく関連していることも示唆されている。しかし、本来持つべき健常な口腔細菌叢の解明は充分ではない。本研究の結果から、う蝕原性菌、歯周病菌、さらに全身の健康状態に影響を及ぼすとされている菌種は数種類の菌種とクラスターを形成して存在していた。今後はさらに菌種間の相互作用の検討が疾患解明に大きく役立つものと思われる。 以上の点から、健常な口腔細菌叢の解明は今後の口腔疾患をはじめとする様々な疾患の解明、予防に大きく貢献できるものである。
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