口腔機能の中で重要な機能の一つである咀嚼機能は、患者の食形態を決定する一因子となる。咀嚼機能の低下は口腔の器質的な部分に原因がある場合もあれば、疾患により障害されている場合もあるが、後者は不明な点が多く、検査法も確立されていない。本研究では、回復期リハビリテーション病院入院中の摂食嚥下障害患者に対して歯触りのよい煎餅を用いた咀嚼機能評価を実施し、脳血管障害患者の咀嚼機能煎餅を評価した。 対象は、意識状態がJCS-Ⅱ-1O以上で、絶食もしくはミキサー食やきざみ食など咀嚼が不要な食形態を摂取している患者43名とした。嚥下内視鏡検査(VE)にて、とろみを誤嚥なく摂取できた例を対象とし、通常の被検食にて評価後、サクサクテスト(以下SST)を実施した。SSTでは咀嚼を要する歯触りのよい薄焼き煎餅を用いた。摂取場面はVEと動画にて記録した。SST時の意識状態、咬合状態、咀嚼パターンの有無(下顎の偏位の有無)、食塊形成(集合度・粉砕度)、誤嚥の有無を評価した。 43名のうち、咀嚼・食塊形成が良好で誤嚥なく煎餅を嚥下可能だったのは36名(83.7%)であった。煎餅を摂取不可能だった7名は、意識状態不良で咀嚼運動が生じない例が2名、煎餅を認識できず咀嚼が生じない例が1名、リズミカルな下顎の動きは生じるものの咀嚼パターンが生じない例が2例、義歯不適合と口腔機能低下により口腔内残留が著名だった例が1例、食塊形成は良好なものの煎餅もペースト食も誤嚥する例が1例であった。また、歯科治療の介入により咀嚼機能が改善し、煎餅を摂取可能になった例も存在した。 咀嚼が不要な食形態を摂取している患者でも、咀嚼・食塊形成がしやすい食品であれば摂取可能な患者が多かった。また、咀嚼運動は簡単には消失せず、回復期リハビリテーション病院の入院中に口腔機能を評価し、歯科治療へつなげる必要性が示唆された。
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