日本は65歳以上の高齢者が総人口の25%を超える超高齢社会である。社会の高齢化が進むにつれ、脳神経障害を基礎疾患に持ち、摂食嚥下障害を有する患者が増加している。一方”口から食べて満足感を得たい”という本人の希望はもとより、それを叶えてあげたいという家族の要望は根強く存在している。食に関する”満足感”の源は「おいしさ」を感じることであり、味覚および嗅覚情報の統合が深く関わると考えられている。しかし根拠の多くは食行動の観点からの報告であり、中枢神経機構に関するものは充分ではない。そこで本研究は、時間-空間解像度が高いという利点をもつ光学計測法を用い、味およびニオイ刺激に対する応答を指標にして、それらを統合する領域と考えられる島皮質および梨状皮質における化学感覚の情報処理機構を明らかにすることを目的とした。 本研究課題を実施した結果、まず全身麻酔を施したマウスの全脳動物標本に味およびニオイを呈示し、大脳皮質におけるフラビン蛋白(内因性蛍光蛋白)の蛍光変化をとらえることが可能となった。次に、味およびニオイの呈示を一個体に同時に行ったときの大脳皮質応答を計測するための至適条件を模索し、同時に呈示した場合の応答計測を行い、脳活動の特徴を捉えるべく解析を行った。そしてニオイ物質としてはアミルアセテート(バナナのようなニオイ)を複数の濃度で呈示し、応答強度の強弱および応答部位の広がりの違いを捉えた。味については、苦味と甘味それぞれ複数の濃度を呈示したときの応答を捉えた。また、これらの味とニオイを同時に呈示した際のデータを得ることができるようになり、この内容についても解析を進めた。これまでの研究成果の一部は学術大会で発表したほか、論文にまとめ現在投稿中である。
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