研究課題/領域番号 |
17K12075
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小宮山 政敏 千葉大学, 大学院看護学研究科, 教授 (70175339)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 看護技術 / 静脈注射 / 神経損傷 / 皮静脈 / 皮神経 / 前腕 |
研究実績の概要 |
前腕における静脈穿刺の危険領域について検討することを目的として、平成29年度は献体された解剖用遺体6体(男女3体ずつ)のうち、上肢に著しい病変が見られず正常な肢位を保っている10上肢を対象に、前腕の皮静脈と皮神経を剖出し、それらの走行を定量的に解析した。 方法としては、一定条件で撮影した写真から画像処理ソフトPhotoshopを用いて前腕の外形、皮神経、皮静脈をデジタル画像として抽出した。抽出画像は前腕外形を10肢の平均値に合わせることで標準化した。次に抽出画像を1 mm四方の区画に分け、各区画に占める皮神経・皮静脈の面積を画像分析ソフトImageJによって測定し、1区画内に占める面積をその区画での存在確率として算出した。全区画における皮神経・皮静脈の存在確率について10肢の平均値を算出し、前腕における皮神経・皮静脈の走行部位を区画ごとの確率の図として示した。 その結果、皮神経の存在確率が高かったのは、①前腕掌側のHüter線(上腕骨内側上顆と外側上顆を結ぶ線)の橈側2/5の位置から橈骨遠位端にかけての直線上(特に前腕の遠位1/3)、②近位中央部を除く手背全体(特に橈骨・尺骨の茎状突起付近)、③前腕橈側面の掌側半であった。皮神経の存在確率が低かったのは、①前腕掌側の中央部、②手根背面~手背近位部の中央部、③前腕橈側面の遠位1/2の背側半であった。これら皮神経の存在確率の高い領域は危険と考えられ、静脈穿刺には注意を要する。一方、皮神経の存在確率が低い領域にも皮静脈は存在するので、それらの領域は比較的安全と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は男女3体ずつの両上肢、すなわち12上肢の解剖を行う予定であった。実際に12上肢を解剖したが、2上肢については出血痕等によりデータの取得が困難であったため、解析できたのは10上肢であった。この点に関しては進度がやや遅れた感がある。 しかしその一方で、解析方法に関しては従来の方法とは異なる画期的な手法を考案して実施した。従来は、皮静脈や皮神経の走行をパターン分類してその特徴を明らかにする手法が用いられてきたが、今回は前腕を1 mm四方の区画に分け、各区画に存在する確率を皮神経と皮静脈について定量化し、確率の高低を色の濃淡で表現した図として表した。これにより、前腕のどの部分に皮静脈と皮神経がどの程度の確率で存在するかが一目でわかり、静脈穿刺の際に皮神経が高確率で存在する部位を避けるのに貢献できると考えられる。この点に関しては、予定以上の大きな進展があったと考えられる。またこの成果について、研究協力者(看護学研究科博士前期課程の大学院生)を筆頭として第123回日本解剖学会総会・全国学術集会で発表したところ、肉眼解剖トラベルアワード(献体協会賞)を受賞した。 反転解剖による皮神経・皮静脈の剖出はまだ実施していないが、次年度は必ず実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は、通常解剖によるデータをさらに蓄積しつつ、新たに反転解剖によるデータ収集を始める予定である。反転解剖では、皮神経と皮静脈を損傷することなく皮膚側に残したままの状態で観察できるため、従来よりも詳細なデータ(特に末梢部)が取得できると考えられる。 研究協力者(医学薬学府の博士課程の大学院生1名)は確保してあり、予定通りに研究を進められると考えている。
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