本年度は、前腕の橈側または背側に点滴静脈注射を実施することを想定し、神経損傷を回避するためのデータとして、回内位の前腕の橈側および背側における皮神経および皮静脈の走行を解析した。対象は、献体された解剖用遺体3体の6上肢とした。体表から皮神経の走行をイメージするために、上腕骨外側上顆と橈骨茎状突起を結ぶ体表上の線を長軸(longitudinal axis; LA)として設定し(上腕骨外側上顆を基準点とする)、皮神経の走行路をLAとの位置関係で表現した。 その結果、①橈骨神経浅枝はLAの61.2~77.5%の高さで皮下に出現し、LAの掌側に沿ってLAから10 mm以内を母指に向かって走行していた。②外側前腕皮神経は上腕二頭筋腱のすぐ外側において皮下に現れ、橈骨茎状突起に向かって走行していた。その途中で数本の枝が分かれ、さまざまな高さにおいてLAを越えて前腕の橈側および背側に分布していた。③後前腕皮神経は上腕の外側面において皮下に現れ、LAの掌側を下行し、肘の上位あるいは下位において数本に分かれて前腕の背側に分布していた。しかし、前腕背側の遠位部においては肉眼で確認できるような後前腕皮神経の枝は見られなかった。④橈側皮静脈を遠位から近位に向かって辿ると、はじめは橈骨神経浅枝に沿って走行するが、その後は外側前腕皮神経およびその枝に沿って走行していた。 以上のことから、前腕の橈側または背側に点滴静脈注射を実施する際には、①橈側皮静脈の本幹は太く穿刺しやすく見えるが、できれば避けた方が良いこと、②やむを得ず穿刺する場合も、その深部には橈骨神経浅枝および外側前腕皮神経が存在することを意識して、深く刺し過ぎぬよう注意すべきであることが明らかとなった。また、③前腕背側の遠位部には目立った皮神経が見当たらないので、そこに穿刺可能な皮静脈があれば穿刺しても問題ないことも明らかになった。
|