最終年度は、収集した関連史資料の補足調査ならびに分析を行い、諸外国における高度看護実践の発展プロセスについてまとめた。米国では、高度実践看護は戦後の医療ニーズの多様化、医療保険(メディケア・メディケイド)の創設、疾病構造の変化による慢性疾患や高齢患者の増加、医療の高度化と病床回転率の低下による医療費の高騰、医師の専門医志向の高まりによる一次医療の危機が背景にある。すでにこの時期には、訪問看護や公衆衛生看護に携わる看護師のなかに、無医地区で母子保健、学校保健、身体障がい児、健診や予防接種などのクリニックなどの地域のサービスを実践する者がいて、看護師だけで診療所を運営する素地ができていた。看護の高等教育化も、大学院での実践家の育成の一環として、地域で初期医療を担う看護師の教育を後押しするものとなった。当初、修了した看護師の地域での医師との協働は必ずしもスムーズではなかったが、実践を通して高度実践看護は地域からの信頼を得、関係機関により教育認証、資格認定、法律面での医行為に関する権限の明記など、整備が行われたこと、また研究により高度実践看護のアウトカムが検証されたことで、現在は米国のみならず高度実践看護は多くの国々で定着していった。日本でも高度実践看護師については1970年代から紹介され、看護学の基盤に基づく教育、保健師助産師看護師法での資格規定、検査、診断、処方に関する権限の医師法・薬剤師法を含めた法体系のもとでの整備が必要となろう。同時にケアサイエンスとしての看護のアイデンティティと実践の基盤をより確かにすることが重要と考える。
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