1970年代米国社会において顕著になった性暴力被害を背景に、保健医療現場における暴力被害者に対する適切なケアならびに権利擁護の機能不在を認識したVirginia A. Lynchは、1986年、テキサス大学においてフォレンジック看護実践モデルのカリキュラム化を達成し、1991年には国際フォレンジック看護学会を創設した。日本においても暴力被害の蔓延を背景にフォレンジック看護機能体制の確立は喫緊の課題である。本研究ではフォレンジック看護の実践を支える哲学の未言明化状況をふまえ、その哲学体系を明らかにすることを目的とした。 結果として、特に本研究最終年度における想定外かつ未曽有の新型コロナウイルス禍に見舞われ、研究代表者の本務校の状況判断により、V. A. LynchをはじめDr. Ann W. Burgess、他5名のフォレンジック看護の先駆的な実践者であり研究者への聞き取り調査の実施ならびに収集データのLynch、Burgess両氏のスーパーバイズによる総合的分析という研究計画の遂行が遮断されたことに加え、最終年度が研究代表者の定年退職年に当たり期間延期手続きができず、不本意にも、本研究は未完のまま終了せざるをえなかった。 ただし、中間的結果として、フォレンジック看護の実践哲学は、看護師がフォレンジック科学を共通の知識とする他の領域の保健医療主体および法執行主体と協働し、犯罪と法的責任が関与する被害者(被害者、加害者、被疑者、拘留者)に対する全人的看護ケアの提供、さらには初診アセスメント、検査、証拠採取と保存、法廷での証拠に基づく専門家証言による被害者の権利の擁護責任の遂行によって、人間の安全とウェルビーイングを達成することを追求する概念構成を持つと言える。なお、本研究の一部は2019年10月、World Congress for Sexual Healthで発表済みである。
|