医療ツーリズムや外国人患者の増加に伴い、異なる言語や文化的背景を持つ患者との円滑な医療コミュニケーションの構築が益々求められるようになった。本研究では、外国人患者との医療コミュニケーションを、社会言語学理論の一つである Brown & Levinson(1987)のポライトネス理論から分析し、その阻害要因を特定する。 ポライトネスとは、人間関係構築に貢献する言語特有の発話スタイルを差す。それは、統語規則のように強い言語的制約は持たないが、語用論的規則の一つとして母語話者間に緩やかに共有されている。そのため、たとえ日本語の語彙や統語規則を十分に理解している外国人であったとしても、日本語特有の発話スタイルに不慣れなために円滑なコミュニケーションが阻害されることがある。 日本語特有の発話スタイルの一つに、周辺情報から言語化するという言語習慣が挙げられる。これまでの研究では、日本語、中国語、韓国語の依頼発話の比較において、周辺情報から言語化するという談話レベルの情報構造が日本語母語話者のポライトネスの一つとして機能していることが示されたが、医療コミュニケーションの場においても同様の特徴が観察されるかどうかについて、実験的に検証する。 岐阜大学保健管理センターの協力の下、外国人留学生、および日本人学生との医療面接を録音する実験を行い、上記の語用論的観点よりデータの分析を行う予定であったが、新型コロナの感染拡大防止の影響により実験の延期が余儀なくされたため、本研究は完了していない。
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