研究課題/領域番号 |
17K12266
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
中島 淑恵 東京医科大学, 医学部, 講師 (90459131)
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研究分担者 |
美馬 達哉 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (20324618)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 音楽併用リハビリ / 癒し感 / 運動準備電位 / 感性評価尺度 / 定量化手法 / 看護支援 |
研究実績の概要 |
臨床における音楽を推奨するうえで,その科学的根拠は確立されていない.そこで,本研究では,音楽をリハビリテーション(以下リハビリ)に併用した際の「癒し感」を可視化し,定量化することで,主観的な印象から変化する心理的,生理的な反応を基盤とした尺度を開発する予定である.これにより,音楽を臨床で用いる際に,主観的な印象からどのような心理的・生理的な影響を受けているか定量化することができ,長期的なリハビリを行う対象へ身体的,心理的な効果を見据えた支援方法を確立することができる. 本研究で用いる定量化手法は,思い付き,感情,推測などを排除し,科学的な根拠に基づき,主観である「癒し感」を生理的且つ心理的に示すことが可能となる.すなわち,音楽を聴いた際の「癒し感」が,心理的安寧や,生理的に緊張が緩和され,筋が弛緩するうえで有用で,且つ,実用性を説得力ある形で示すことができる.メカニズムや特徴による定性的な説明と,データを用いた定量的な説明の両者により,臨床音楽における「癒し感」を明確に定義した基準を作成し,リハビリをうける患者へのリラクセーション効果を明らかにすることが本研究の成果となる予定である本研究計画では,音楽により変化する主観的な変動を,心理的,神経生理学的の変動傾向とマッチングさせて,感性評価尺度を作成する.臨床音楽による癒し感を得ることで,音楽併用リハビリの有用性を評価するツール開発をエンドポイントとする. 本年度は第1段階として,健康被験者を対象として,音楽を併用した運動時の運動準備電位とその際の感性評価を定量的に評価した.その結果,運動に併用した音楽の印象が「澄んだ」・「静かな」場合に,運動準備電位の潜時が増大したことが分かった.これにより,癒し感をもたらす臨床音楽の特性として運動の準備状態が高まることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,リハビリを受療する患者の動機付けを高めて支援するために,看護師が主導で提供する手法を開発する.まず,自律神経活動や脳波計測により,音楽による癒しの主観的・質的経験を神経生理的特性から客観的に評価することで,その精神生理作用について検証し,「癒し感」という感性を定量化する.それにより,音楽により生じる主観的経験と神経生理学的なリラクセーション計測に相関があるという仮説を検証する.そのうえで,脳卒中患者でのリハビリ手法に音楽を併用することを通じて,臨床音楽の現場で利用可能な有用性評価ツールを確立することを目的としている. 当初の予定として,平成29年度には,健康被験者を対象にして,生理学的評価と心理学的評価により,「癒し感」を含む音楽による感性定量化手法を確立することを目標に掲げていた.その後,感性尺度評価の指標を作成し,その妥当性を評価し,臨床における音楽(臨床音楽)の「癒し感」が,環境適応や生体防御の指標ともなる自律神経活動や,快適性や報酬系の指標となる脳波の信号応答に相関性があるか明らかにする.そのうえで,最終年度には,脳卒中のリハビリ期にある中等度麻痺患者を対象に音楽を提供し,リハビリ訓練における「癒し感」が,身体・精神に即時的に与える効果を評価し,ADLおよびQOLの向上に寄与するかについて長期的な効果を明らかにする.すなわち,3年の研究で,感性評価と精神・神経反応の相関性を検証し,臨床音楽を併用したリハビリツールを確立する. 本年度,第1段階として生理学的評価と 心理学的評価により,「癒し感」を含む音楽による感性定量化手法について,健康被験者を対象とした研究により確立することができた.現在,解析プログラムを新たにし,再解析に取り組んでいる段階である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,リハビリを受療する患者の動機付けを高めて支援するために,看護師が主導で提供する手法を開発する.まず,本年度は健康被験者を対象に生理学的評価と心理学的評価を行い,「癒し感」を含む音楽による感性定量化手法を確立した.当初の計画ではこの後,感性尺度評価の指標を作成し,その妥当性を評価し,臨床における音楽(臨床音楽)の「癒し感」が,環境適応や生体防御の指標ともなる自律神経活動や,快適性や報酬系の指標となる脳波の信号応答に相関性があるか明らかにする予定である.最終年度には,脳卒中のリハビリ期にある中等度麻痺患者を対象に音楽を提供し,リハビリ訓練における「癒し感」が,身体・精神に即時的に与える効果を評価し,ADLおよびQOLの向上に寄与するかについて長期的な効果を明らかにし,感性評価と精神・神経反応の相関性を検証し,臨床音楽を併用したリハビリツールを確立させる予定である. 次年度は,本年度確立した定量化手法を用いて,心理的な影響としての「癒し感」を定量化する予定である.方法としては,健康被験者100名を対象として,音楽の嗜好により定量化された「癒し感」が影響を受けるか調査し,臨床音楽として感性評価のデータベースを構築する.実験では,被験者が自選した癒しを感じる音楽を聴取する群と,研究者が選定した癒しを感じる音楽を聴取する群に分ける.その上で,POMS2日本語短縮版を用いて被験者の心理状態を評価した後,音楽課題を聴取させる.2群における「癒し感」の定量化は,第1段階の手法と同様に,心電および脳波計測による音楽聴取中の3次元状態図によりプロットして生理学的評価を行い,SD法およびVisual Analog Scale (VAS)を用いた心理学的評価による解析で評価する.これにより,音楽による「癒し感」を生理・心理学的側面から評価した感性評価尺度が完成させることを目標とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
データの解析プログラムを組み,データを見直していた関係で,新たな被験者を募りデータを集積することができなかった.そのために,被験者への実験参加の謝金,データ入力の人件費等が費用として計上することなく初年度が終了した.また,研究テーマの継続性から,研究成果の発表に関しては,延長していた研究課題から算出し,本研究成果を併せて学会で発表した.そのため,本基金からの支出が抑えられた. 次年度以降の研究において,被験者謝金,データ入力人件費,研究成果発表に関する旅費に加算して計上する予定である.
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