研究課題/領域番号 |
17K12284
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研究機関 | 岩手保健医療大学 |
研究代表者 |
江守 陽子 岩手保健医療大学, 看護学部, 教授 (70114337)
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研究分担者 |
川野 亜津子 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (10550733)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会経済的地位 / 健康格差 / 母親の健康 / 育児ストレス / 健康関連QOL / 記述統計的横断研究 / 質問紙調査 |
研究実績の概要 |
厚生労働省が2016年7月にまとめた「国民生活基礎調査」によると、「貧困線」(2015年は3人家族211万円)に満たない世帯の割合を示す「相対的貧困率」は16.6%であった。さらに、わが国の貧困率はイスラエル、アメリカに次いで先進国では第3位である(厚労省,2016)。資本主義経済が浸透した社会では、社会階層と経済的階層は相関性があり、教育、収入および職業等は、一般に個人やグループの社会的地位やクラスとして概念化される。社会階層と経済的階層の格差は健康の格差も生んでいる。 近年わが国では欧米にははるかに及ばないものの、高齢者や成人男性を研究対象として研究が行われるようになってきた。しかし、女性や母子を対象に据え、社会経済的地位(Socioeconomic status:以下 SESと略)がどのように母親の健康や育児ストレスに影響を与えるのかを明らかにした研究は少ない。 本研究は、SESが育児中の女性の健康関連QOL(Health Related Quality of Life)と育児ストレスに及ぼす影響を検討する目的で、本年度は以下について明らかにする。1) SESと女性の健康状態と育児ストレス、主観的幸福感との関係を明らかにする。 育児期の女性に対する自記式質問表を用いての記述統計的横断研究による関連検証研究とし、調査は所属機関の研究倫理委員会承認後(2017年8月23日)から開始した。研究対象は、1~3歳未満の子どもを持つ女性である。研究者が居住する県内の1歳6か月健康診査会場にて、研究者が直接母親に研究の趣旨を説明し、アンケートを配布した。さらに、県庁所在地にある私立保育園に通園している1~3歳未満の子どもの母親に対し、子どもを通じてアンケートを配布した。現在までのアンケートの配布総数は1231通、回収数は381通であり、回収率は約31%である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査は2017年12月から開始した。研究者が居住する県内の1歳6か月健康診査会場にて、研究者が直接母親に研究の趣旨を説明し、アンケートを配布するとともに、私立保育園に通園している1~3歳未満の子どもの母親にアンケートを配布した。アンケートは1231通配布し、381通を回収した。回収率は31%である。 G Power 3.1.9を用いて、一元配置分散分析を使用することを念頭に効果量=0.25(中程度)、有意水準=0.05、検出力=0.8と設定し、サンプルサイズを算出すると、トータルサンプルサイズは180名であり、他の設定を変えず検出力を0.95とすると280人となる。現在までに、計算上では十分な回収数を得たと考える。 次の段階としては、アンケート用紙を整理し、データを入力する準備に取り掛かる予定である。SESは財産や所得などで分別される経済的階層と、身分や階級などの社会文化的尺度で分別される社会階層が、互いに強い相関を持つという考えを基盤に置いていることから、学歴、有職か否か、世帯の収入金額と母親、母親の健康状態や育児ストレスとの関連を分析していく。データ分析の方法は、研究対象者の社会経済的地位により2グループに分け、母親の健康状態や育児ストレスを比較する予定である。 統計解析にはSPSSを使用し、1). 対象者の年齢, 子供の年齢, 就労状態などの属性間の関係を確認するためにx2検定、2). SESと対象者のQOL、育児ストレス、主観的幸福感についての関係を検討するために,一元配置分散分析を行う。また、比較を確認するためにTukey法を用いて行う。さらに、3). 育児ストレスとQOL、主観的幸福感の関連はピアソンの積率相関の二変量相関分析で確認、ついで、4).健康の社会的決定要因としてのSESの重要項目を判別するために、ロジスティック回帰分析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、以下について明らかにすることを目的としている。 1) SESと女性の健康状態と育児ストレス、主観的幸福感との関係を明らかにする。 2) 健康の社会的決定要因としてのSESの重要項目を判別する。 現在までに、十分なアンケートの回収数を得たと考えるが、調査対象の80%以上が保育園に通う子どもの母親を対象としているため、母親が有職者である可能性が高いと予想される。よって、今後も引き続き1歳6か月健診会場での無職者の母親を視野に入れたアンケート配布を継続する予定である。さらに、今後結果がまとまり次第国内外を問わず、看護系の学会で発表し、研究テーマを同じくする研究者のアドバイスや批評を仰ぐための準備をしたい。研究経費については、これまではデータ収集のための交通費に多くの予算を割かざるを得なかったが、今後は分析のために専用に用いるパーソナルコンピューターとプリンター機器やその消耗品の購入、学会出席のための交通費に活用したい。 日本人女性の健康をSESの観点から分析して問題点を明らかにし、社会的、経済的、政策的に子どもを持つ女性の支援策を練るためのデータは十分ではない。本研究では、SESを個人の背景や属性に留めるのではなく、女性の健康に影響を及ぼす重要要因と位置付けて関連を分析する。それによって、育児期の女性の健康を守るためには、SESの何が女性の健康や育児ストレスに最も影響するかを明らかにし、その結果をもって、育児期の女性あるいは母子の健康を保障するために、看護・医療・福祉の分野からどのような社会的、経済的、政策的支援が必要かを見出し、わが国の社会制度や健康支援策に対して根拠をもって有用な提言をしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度直接経費140万円のうち18万円(約13%)を全額次年度に繰り越すことについて、以下のとおり報告します。 当初予定した市町村の1歳6か月健診でのアンケート調査は、事前に打ち合わせした自治体からは調査の許可が下りなかった。そのため、研究機関の所在地から範囲を拡大して遠方の自治体での調査となった。それにより、調査のための多額の交通費が必要になり、費目配分額の修正を迫られた。また、アンケートの収集の遅れに伴いデータ分析まで至らず、データ入力にかかる費用と分析のための専用コンピューターの購入を控えた。 結果的に差額が生じたが、これらの経費はすべて次年度に移行し、使用計画の通りに次年度予算として早々に使用する予定である。
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