研究課題/領域番号 |
17K12284
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研究機関 | 岩手保健医療大学 |
研究代表者 |
江守 陽子 岩手保健医療大学, 看護学部, 教授 (70114337)
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研究分担者 |
川野 亜津子 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (10550733)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会経済的地位 / 健康格差 / 母親の健康 / 育児ストレス / 健康関連QOL / 質問紙調査 |
研究実績の概要 |
資本主義経済が浸透した社会では、社会階 層と経済的階層は相関性があり、教育、収入および職業等は、一般に個人やグループの社会的地位やクラスとして概念化される。また、社会階層と経済的階層の格差は健康の格差も生んでいる。 近年わが国では欧米にははるかに及ばないものの、高齢者や成人男性を研究対象として社会経済的地位(Socioeconomic status:以下SESと略)と健康との関係に着目した研究が行われるようになってきた。しかし、女性や母子を対象に据え、SESがどのように母親の健康や育児ストレスに影響を与えるのかを明らかにした研究は少ない。 本研究は、SESが育児中の女性の健康関連QOL(Health Related Quality of Life)と育児ストレスに及ぼす影響を検討する目的で、SESと女性の健康状態と育児ストレス、主観的幸福感との関係を解析した。 育児期の女性に対する自記式質問表を用いて、1~3歳未満の子どもを保育園に預けている女性に対し、アンケートを配布した。アンケートの回収数は381通であり、回収率は31%であった。対象者の平均年齢は33.5歳であり、30代が7割を占めている。また、大学・専門学校卒が7割で、世帯の平均年収が500万円を超えるものが半数を占めていた。しかし、ローン、食料、光熱費といった生活の基盤に困った経験がある対象者は6~7%、困った状況がよくある対象者は1.5%であり、4割強の対象者が生活は苦しい、やや苦しいと答えていた。一方、育児ストレス尺度とGHQにはほとんど相関がみられなかった。本調査対象者においてはSESと幸福感、育児ストレス尺度、GHQとの関連はみられなかった。今後、残りの研究期間で、解析法について検討を進めるとともに、母集団を増やすことも視野に入れ、分析を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査は2017年から開始した。現在までに私立保育園に通園している1~3歳未満の子どもの母親から381通のアンケート用紙を回収した。回収率は31%である。 G Power 3.1.9を用いて、一元配置分散分析を使用することを念頭に効果量=0.25(中程度)、有意水準=0.05、検出力=0.8と設定し、サンプルサイズを算出す ると、トータルサンプルサイズは180名であり、他の設定を変えず検出力を0.95とすると280人となるため、計算上では十分な回収数を得たと考える。 また、本年度は得られたデータを入力し、分析を開始した。SESは財産や所得などで分別される経済的階層と、身分や階級 などの社会文化的尺度で分別される社会階層が、互いに強い相関を持つという考えを基盤に置いていることから、学歴、有職か否か、世帯の収入金額と母親、母 親の健康状態や育児ストレスとの関連を分析した。研究対象者の社会経済的地位により2グループに分け、母親の健康状態や育児スト レスを比較した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、以下について明らかにすることを目的としている。 1) SESと女性の健康状態と育児ストレス、主観的幸福感との関係を明らかにする。 2) 健康の社会的決定要因としてのSESの重要項目を判別する。 現在までに、十分なアンケートの回収数を得たと考えるが、調査対象の80%以上が保育園に通う子どもの母親であり、有職者であることから、SESの低い世帯が少ないことが解析を難しくしている。 次年度は、結果がまとまり次第国内外を問わず、看護系の学会で発表し、研究テーマを同じくする研究者のアドバイスや批評を仰ぐための準備をしたい。研究経費については、 これまではデータ収集のための交通費に多くの予算を割かざるを得なかったが、今後は分析のために専用に用いるパーソナルコンピューターとプリンター機器やその消耗品の購入、学会出席のための交通費に活用したい。 日本人女性の健康をSESの観点から分析して問題点を明らかにし、社会的、経済的、政策的に子どもを持つ女性の支援策を練るためのデータは十分存在するとは言い難い。本研究では、SESを個人の背景や属性に留めるのではなく、女性の健康に影響を及ぼす重要要因と位置付けて関連を分析する。それによって、育児期の女性の健 康を守るためには、SESの何が女性の健康や育児ストレスに最も影響するかを明らかにし、その結果をもって育児期の女性あるいは母子の健康を保障するために、看護・医療・福祉の分野からどのような社会的、経済的、政策的支援が必要かを見出し、わが国の社会制度や健康支援策に対して根拠をもって有用な提言をしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の直接経費138万円のうち15万円(9%)を次年度に繰り越すことについて、以下の通り報告する。 本年度の中心的研究活動は得られたデータの整理と分析、その解釈に充てた。しかし、思うような結果が得られず、それが我が国の対象集団の特徴なのか、データの偏りなのかを検討するために、多方面からコンサルテーションを受けた。分析方法の再検討も必要であることから本年度中の成果発表を控え、さらに手法を変え、分析をやりなおしている。 よって、学会発表のために必要な経費が若干残る形となった。しかし、年度をまたいでしまったが、2019年に開催される学会に演題を応募しているので、これらの残金は次年度の予算に含め、早々に使用する予定である。
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