手術室外での小児の鎮静処置を安全に実施するためには、鎮静実施者が必要不可欠であり、本研究では熟練看護師のコンピテンシーに着目した。注視点追跡システムを利用して、鎮静処置の注視行動を標的行動として経験数の少ない新人看護師を対照群とした。 注視点追跡システムの解析により、熟練看護師の特徴が3点明らかになった。1点目は、鎮静処置中に手技を行なっている術者を観察する固視回数(fixation count)と観察回数(number of visits)が有意に多いこと、2点目は記録業務に要する平均固視時間(average of fixation time)が長く固視回数(fixation count)は少ないこと、3点目は患者のバイタルサインを表示するモニターの平均固視時間(average of fixation time)が長く、かつ固視回数(fixation count)は少ない傾向にあることが確認できた。一方で、患者の観察、処置の介助に関しては、明らかな差を指摘できなかった。 本研究で判明した3点の特徴をコンピテンシーとして表すと、1点目は術者のニーズに応えるための備え、2点目は効率の良い記録業務、3点目の患者モニターの効率的な運用と言い換えることができる。3つのコンピテンシーのうち、インストラクショナルデザインに基づく教育プログラムを策定するにあたり、最も効率が良いのは記録業務の効率化と簡易化である。記録業務は熟練看護師でもばらつきが大きく全体業務の約30%を占めていた。記録業務の負担軽減により、1点目の術者ニーズに費やす時間が確保でき鎮静処置の円滑な実施に繋がることが期待できる。音声入力による記録と定型フォーマットを利用する新しい教育プログラムを検証する予定であった。残念ながら、コロナ禍と主任研究者の転勤により教育プログラムの実施と再検証の計画は実行できなかった。
|