研究課題
ダウン症者の健康問題の一つに閉塞性睡眠時無呼吸がある。ダウン症の解剖学的特徴や共存症に顎顔面の劣成長に伴う小顎症や咬合不全、筋緊張低下やそれに伴う巨舌症や、甲状腺機能低下症、肥満などがあり、これらはダウン症者が閉塞性睡眠時無呼吸を多く合併する原因と考えられている。また、ダウン症者は“座臥位”や“座位”などの特異的な睡眠体位で眠ることが報告されている。座臥位とは、足はあぐらや正座などを取り、体は前に倒し、頭はベッド上や足の上に乗せた姿勢である。本研究は質問紙調査及び簡易睡眠検査・ビデオカメラを用いたホームモニタリングによる簡易睡眠検査を行い、ダウン症者の睡眠体位と閉塞性睡眠時無呼吸の実態とその関連を調査した。質問紙調査では、睡眠体位や睡眠習慣、全体的な睡眠評価・健康評価、健康関連QOLを調査し、ダウン症者の親が回答した。102名(有効回答数)のうち約3割のダウン症者が親によって「睡眠状態が悪い」と評価された。睡眠評価が悪い群では座臥位や座位など特異な睡眠体位で眠る者が有意に多く、睡眠潜時が有意に長く、呼吸停止や夜間覚醒が有意に多かった。簡易睡眠検査では、ダウン症者14名が調査に参加し10名からデータを得た。また、ビデオカメラによる睡眠体位の撮影では11名からデータが得られ、座臥位で眠っていたダウン症者は11名中1名のみであった。簡易睡眠検査を実施したうち、10代ダウン症者8名では、全対象者の呼吸障害指数は5以上であり、高頻度に閉塞性睡眠時無呼吸を合併していることが示唆された。また、全対象者で記録された無呼吸低呼吸イベント総数のうち約9割が仰臥位で発生した。こうしたダウン症者の治療として仰臥位を避ける睡眠体位を工夫するように啓発することが重要である。ダウン症者では主観的な評価だけでは閉塞性睡眠時無呼吸を発見することは不十分と考えられ、積極的な検査の重要性が示唆された。