本研究は、高齢者の肺炎罹患率を低減する積極的な予防策として、セルフケアによる生活リズムの調整の効果を明らかにすることを目的に、日常生活、肺炎予防策の実施、口腔機能、健康状態、睡眠の質と免疫機能に着目した。今年度は、地域在住高齢者を対象に、日常生活における手洗い、うがい、マスクの着用等の観察、機器を用いた睡眠の測定、唾液による分泌型IgA(sIgA)の測定等を実施した。手洗いの観察は日を変えて2回実施し、2回目の実施前に参加者に1回目の結果(手洗いの所要時間等)のフィードバックと推奨される方法を提示した。 調査の結果、手洗いは、平均所要時間が1回目は35.1秒、2回目は66.7秒であり2回目の方が有意に長かった。しかし、手型寒天培地による手洗い前後の手指の細菌採取では、細菌コロニー数(CFU)に有意差は認められなかった。手洗いの方法では、指先と手首を洗う動作が他の部位に比べて少なかった。マスクの着用は、マスクの装着と外す動作について7項目を観察したところ、実施されていたのは平均5項目であった。うがいは、口腔内をすすぐ方法と顔を上に向けて咽頭をすすぐ方法の両方、または一方が用いられており、平均所要時間は27.0秒であった。歯磨きの平均所要時間は112.5秒であった。 唾液によるsIgAは、睡眠効率の高い日の翌朝に値が高いことが認められた。 以上より、日常の肺炎予防策は、参加者の実施状況を客観的に評価し、その結果と推奨される方法を提示することによって改善する可能性があると考えられたが、効果的な方法の習得に課題がある。生活リズムの調整とsIgAについては、活動と休息、sIgA値の詳細な検討が必要である。 また、認知機能の低下のリスクのある高齢者には、日常生活における社会的な交流を検討する必要性が見出された。
|