自分のおかれている状況を主観的なものとしてでなく、第三者的な視点でとらえた説明による認知症の人の判断が、本人の意思決定能力の有無を考え、処遇を考える上で有用であるか検討した。
これまでの調査から認知症の意思決定能力の判定について、2つの場面設定(介護と医療)についての設問を用意した。内容は、認知症の人が表明した意思が家族、専門職と一致しない場合に、認知症の人の置かれている状況を、別の人に起こった出来事として説明し、第三者的な立場からおこなわれた判断が、家族や専門職が望む判断と一致した時に、その認知症の人の判断能力の有無と、最終的に誰の意向に沿った決定がなされるかについて、現場で働く専門職37名と認知症について一通り学んだ58名を対照として設問を行った。 尿失禁がみられオムツ着用を拒む設定において67%の専門職が認知症の意思を優先的に考え、第三者的視点で適切な判断がされたことに左右されることはなかった。一方、対照群では19%が認知症の意思を優先的に考えたが、第三者的な説明で加えことで、認知症の人には判断力があるとするものが42%に増多した。 医療における意思決定の場面では、専門職で77%、対照群で67%といずれも認知症の意思決定を尊重する回答であったが、自分事としてではなく第三者的に状況を伝えた場合には、治療は受けた方がよい、と考えている場合に、それでも本人の主観的な意思決定に従うのがよいとかんがえるものは、専門職51%、対照群43%とともに治療を優先する方向に傾いた。 認知症の人の意思について判断する場合、何を最も優先すべきかを専門職に尋ねたところ、本人の「気持ち」が最多(54%)で、「理解力」(22%)であり、本研究で行った第三者的視点に立った判断を第一に選択する者は皆無であった。しかし、認知症の人の判断力を考えるうえで有用だとするものが86%であった。
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