2017 年度実施状況報告書

高齢者への懐古的で嗜好性のある音楽聴取が脳活動に及ぼす影響

研究課題

研究課題/領域番号	17K12409
研究機関	石川県立看護大学
研究代表者	中田弘子石川県立看護大学, 看護学部, 准教授 (70551167)
研究分担者	田村幸恵石川県立看護大学, 看護学部, 助教 (20336605) 田淵知世 (中嶋) 石川県立看護大学, 看護学部, 助教 (60638732) [辞退] 林静子石川県立看護大学, 看護学部, 講師 (30346019)
研究期間 (年度)	2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード	音楽 / 懐古的 / 前頭前皮質酸素化ヘモグロビン / 主観的評価
研究実績の概要	現在、音楽療法は脳機能の活性化や精神症状の改善を目的として活用されている。これまでに、音楽の有効性は主観的評価により明らかとっているが、客観的なエビデンスは十分とは言えない現状にある。また、個人の懐かしさに関連した音楽聴取による脳活動を客観的に検討したものは少ない。そこで、本研究の目的は、個人の懐かしさに関連した音楽聴取が脳活動へ及ぼす影響を、前頭前皮質酸素化ヘモグロビン濃度（以下、oxy-Hb）と感情状態の変化を多面的感情状態尺度(Multiple Mood Scale, 以下MMS)により、客観的かつ主観的に評価することである。被験者は健常な女子大学生28名とした。すべての被験者には、懐古的音楽聴取となじみのない音楽聴取（コントロール）を一定の間隔を空けてランダムな順序で実施した。生理的指標としたoxy-Hbは、近赤外線組織酸素モニタPocket NIRS HMを用いて計測した。結果、懐古的音楽聴取中のoxy-Hbは、聴取前に比べてわずかに増加し、コントロールでは低下した。また、2条件ともに音楽聴取中のoxy-Hbは、聴取前との変化はわずかであり、条件間に有意な差はみられなかった（p=.158）。また、聴取中と聴取後の比較では、2条件ともにoxy-Hbの有意な増加がみられた（懐古的：p=.000，コントロール：p=.032）。音楽聴取後の直接比較では有意な差はみられなかったが（p=.145）、懐古的音楽聴取後のoxy-Hbはコントロールの約3倍の値を示した。これらの結果から、個人の懐かしさに関係なく、音楽聴取中は神経活動を鎮静化させ、聴取後には前頭葉を活性化させる可能性が示唆された。一方、2条件後のMMS得点の直接比較では、懐古的音楽はコントロールに比べて、肯定的的感情状態である非活動的快と活動的快のいずれも改善する傾向がみられた。
現在までの達成度 (区分)	現在までの達成度 (区分) 2: おおむね順調に進展している理由平成29年度は研究実施計画通り、第1段階として健常な青年期女性を対象に調査を行った。研究成果は、The 5th Nursing onference において発表するため、2演題（Effects of Nostalgic Music on Cerebral Activity:Oxy-Hemoglobin Concentration in the Prefrontal Cortex）,（Effects of Nostalgic Music on Cerebral Activity: A Qualitative analysis of free remarks）を登録した。現在、学術雑誌への投稿に向けて、論文「懐古的な音楽聴取が脳活動に与える影響－前頭前皮質酸素化ヘモグロビン濃度および主観的指標の観点から－」を作成している。平成30年度は研究実施計画通り、第2段階である在宅高齢者を対象とした調査を行う。現在、研究題目「懐古的な音楽聴取が在宅高齢者の脳活動に及ぼす影響」の研究計画は、所属機関の倫理委員会において審査を受けている。これらの段階的な研究は、概ね当初に計画した予定通りに進展している。
今後の研究の推進方策	平成30年度は、第2段階である在宅高齢者を対象とした調査を行う計画である。現在、研究題目「懐古的な音楽聴取が在宅高齢者の脳活動に及ぼす影響」の研究計画は、所属機関の倫理委員会で審査を受けている。承認された後は、研究協力者および参加者を募集し、調査を開始する予定である。また、データ収集後は論文を作成し、学術学会での発表と学会誌へ投稿する。平成31年度は、第3段階であるグループホームに入居している高齢者を対象とした調査を行う予定である。
次年度使用額が生じた理由	平成29年度の調査は所属施設で実施したこと、調査の一部を卒業研究として扱ったこと等により、旅費および人件費等の一部が不要となった。翌年度分として請求する助成金は、国際学会の発表のための旅費、対象者となる高齢者に必要な音楽等の準備の消耗品費として支出する計画である。