研究課題/領域番号 |
17K12417
|
研究機関 | 群馬パース大学 |
研究代表者 |
木村 朗 群馬パース大学, 保健科学部, 教授 (20367585)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 視覚障害者 / スマホ歩き / 衝突回避 / 電気刺激警報装置 / 歩行 / 複合評価 / 看護者力 |
研究実績の概要 |
2018年-2019年(平成30年度)は失明者が人との衝突直前の情報を通電刺激により認識し、危険回避のために歩くのを止めて踏ん張る実験を複数の地域の集団に対し公開実証実験を行った。主な成績をまとめて国内外の各学会にて発表した。 前年度の課題であった装置の作動不良の要因として実験終盤以降での電極面の通電性能の劣化に対する電極の改良、実験のマニュアル作成、被験者の理解力を評価した上での説明の工夫により、2017年度の失敗率20%を5%まで改善することができた。本年度の研究では、新技術の複合的な評価を行うための実用性に関する具体的な数値の測定、解析を行った。対象者として、失明者18名に対し、5mの歩行路を白杖により歩行するよう指示し、ランダムに人が接近する状況を設定し、装置のONOFFもランダムに設定したうえで、人接近の認識の可否を調べ、接近する人の速度を算出し、装置の反応速度に加え、警告を受けてから、制止するまでの時間および、直前の速度を求めた。その結果、装置使用者が約0.9m/秒以下で歩行し、接近者が約1.3m/秒以下の速度で近づく条件において、この通電アラートが機能し、失明者が制止可能であることを明らかにした。 この中で、実験前に当事者の理解を得ることが難しいケースがあったが、空間認識そのものを説明する困難に基づくものと推測された。新しい支援技術の評価のために既存の臨床試験手法を流用せざる得ない時、視覚障害者では視覚イメージを使用した説明に代わる方法が求められ、開発中の技術への期待の喪失を補完し、興味の持続を促す共感を伴う看護者の力の必要性が確認された。公開実験は新聞、インターネット、テレビで報道された。最終年度は新技術の試験への当事者の参加を促し、またそれらへの関心を高め、新技術の普及を目指した社会的インフラへの提言、ソーシャルコミュニケーションを行うことを目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
考えられる点として、昨年度同様、参加者のリクルートも順調に進んだこと、米国リハビリテーション医学会議における発表に関する成果について、マスコミで取り上げられたこと、それを受けて公開実験を報道各社が本研究について取り上げたこと、視覚障害者団体の積極的な協力が得られたことが重なったことが挙げられる。 また、装置の改良、IOTのプログラムの改良、説明方法の工夫などにより、参加者の理解が昨年度に比べ格段に改善したことも、奏功したものと考えられる。 新たに実験のサンプルとして組み入れた失明者の方々は、これまでの集団と同様に、真摯に実験に取り組んでいる様子が伺え、スタッフにも実験ミスが生じない集中があった。開発した装置の改良がうまく行ったことから、予想以上にIoTセンサーと通電アラート装置の連携が上手く働き、人の接近情報を正確に失明者に伝えることに成功したと思われる。 本研究では、オプトアウトによる人の接近の検出後に通電が切れる方式のみを用いたことから、通電アラートに驚くと言ったこともなく、生理心理的ストレスは少ない状況であったと思われた。 しかし、実験においてインフォームドコンセントを得ることと、実験後における新技術への期待感には、様々なものがあることが明らかになった。真摯にニーズに対する取り組みを科学技術的説明に終始することなく、期待の喪失を補完し、興味の持続を促す共感を示す看護者の力に基づく新たな説明力が必要であることが判明し、それらを心掛けたことで、積極的に実験協力する気持ちが促されたことも奏功したものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
計画に則り、異なる生活圏の失明者集団で実施した模擬プラットホーム移動動作(歩行)中に人が急接近するアラートの認識から行動の発現までの反応時間と効果実験データを詳細に解析する。特に、公共交通機関を利用する際の環境が異なる生活圏で暮らす、それぞれの失明者集団で独立した環境要因と要因間の相互作用の影響を明らかにする。 さらに、ここまでの成果の社会的還元を図るべく関連学会で成果を発表し、様々な分野の研究者と次世代支援技術としてAIの応用技術を含めた情報・意見交換を行い、技術開発・臨床実用性開発におけるネットワークを構築する。 また、日本盲人会連合会と協力して、日本国内の失明者において感覚代行支援技術に対する期待度、ニーズのネット調査、東京都と大阪府においてこの技術の体験会を行う。これらより新技術の開発促進を促すために関係者に訴求する力を高めることを目的とした、当事者と研究者の協働による社会への提言を行うための方策をソーシャルメディアの利活用方法を含めた複合的評価に基づいて試案作成、情報発信を試みる。 新しい支援技術の開発に伴う臨床試験において、視覚障害を持って生きることへの全人的視点からの支援方策、技術開発中に感じる失明者と研究者双方に生じる理想との乖離、期待の喪失を招く場合に備えた、共感に基づく看護者の視点で補完する方策、当事者と研究者双方の興味の持続を促す提言を試案する。 このように視覚障害者支援技術の社会への普及における課題として、一般の人々への意識向上への訴求方法の開発、視覚障害者支援技術の開発に伴う臨床試験でボトルネックとなる視覚障害者の期待喪失に伴うリスク要因を明らかにする。次世代支援技術として失明者や視覚機能低下をもつ人が期待するAIセンシングや超指向性音響技術などの視覚機能代行環境の実用性の追求、現存技術の普及方策を踏まえた看護・リハビリテーション技術研究を推進する。
|