研究課題/領域番号 |
17K12623
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
崎坂 香屋子 帝京大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (00376419)
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研究分担者 |
谷原 真一 帝京大学, 公私立大学の部局等, 教授 (40285771)
吉田 穂波 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 准教授 (20626113)
松原 智恵子 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 薬剤師 (10640394)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 災害弱者 / social capital / 主観的健康感 / mental health / 仮設住宅 / 震災遺族 / 孤立感 |
研究実績の概要 |
本研究は(1)災害被災者の生活環境の健康の経年変化を測定し、(2)被災地のソーシャル・キャピタル(信頼・繋がり)が災害弱者に与える影響を明らかにし、(3)「インクルーシブ」(弱者を取り残さない:inclusive)な復興のあり方を提示することを研究目的としている。 2017年度も2012年から毎年実施している仮設住宅での聞き取り調査を続け、自宅再建を実現し新居での生活を開始した層は心の健康が改善していることが明らかになった。他方、災害公営住宅に移転した方からは近所づきあいをゼロからはじめることによるストレスが語られた。旧仮設住宅のコミュニティに戻って雑談をする機会を設けてストレスを解消している人も見られた。 調査対象地では学校の校庭に設置された仮設住宅が2018年3月末で撤収されることに伴い、仮設住宅から仮設住宅への移転を余儀なくされた世帯も多数発生した。該当住民からは「家を喪失した同じ仲間であり、長期間の仮設住宅生活に耐えた仲間であり、移転先の仮設住宅を快適だと思うようにしている」との発言もあり、東日本大震災では10年に近い仮設住宅生活を送る世帯が実際に発生した。今後の大災害において発災10年後を見通す支援の必要性を提言したい。 一方、震災遺族の状況は大きく異なる。親族に犠牲者がいるかどうかで心の健康状態は大きく異なる、との被災者からの助言もあり、2017年末から2018年3月にかけては、震災遺族を対象にロングインタビューを行った。震災遺族に関しては自宅が再建されても心の健康は「ずっと最低のまま」「暗闇を歩く日々」のままであり、特に200名を超える行方不明者の親族は同じ震災遺族でもさらに異なる状況が続いている。7年を超えても捜索を続けている親族は少なくない。聞き取りにおいて性差による遺族の相違、子や孫をなくした親族とその他の遺族との相違も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は2011年に発災した東日本大震災の被災者を主な対象として経年変化を細かに記録、分析することも研究目的の一つとしている。東日本大震災は被災地域も広く、当該研究が対象としている岩手県陸前高田市も壊滅状態となる深刻な被害を被った。本研究は発災後から複数の大学の異なる分野の研究者らと協働、複数の研究課題を行うことによって、市や近隣被災地域の復興を多面的に分析を行ってきた。復興検証に多数の研究者がかかわることによって、単独ではなしえなかった市全体の復興の進捗の考察や地域支援が可能になった。さらに7年連続による調査の継続により、対象地での人間関係、情報のネットワークが確立されていることによる調査の受け入れも研究の順調な進捗に寄与している。 被災者からは外部者であるからこそ聞かせていただける思いや話も多くなっている。特に状況が深刻な震災遺族からは家族の死からの家庭の崩壊、家族の自死なども語られた。「近所の人には話せないので」と前置きされ、外部者が訪問し聞き取りや支援を行う意義も今後の大規模災害後の復興には不可欠な要素であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、前年から引き続き被災が特に深刻であった震災遺族からの聞き取りを継続し、「災害弱者」である震災遺族の身体と心の健康についての現状や変化、また多様性に焦点を当てて分析を行う。震災遺族からの聞き取りに関しては、十分な配慮も不可欠であるため一人2時間程度の時間をとる必要がある。またサンプリングについても隠れた対象者(hidden sample)であることが多いため、Snowball Sampling、Respondents Driven Samplingを用いて調査対象者を探す。2018年から2019年にかけては20名の震災遺族からの聞き取りを実施することを目標とする。 研究成果の発表に関しては国際学会での発表を2回、英文論文での投稿を2本以上を予定している。また東日本大震災だけではなく熊本地震、さらに比較対象としての途上国および先進国での災害被災者等の調査も可能であれば実施し、今後の大規模災害においてわが国が取り入れるべき提言を取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度も東日本大震災の被災地において8月に2回の全仮設住宅の自治会長(仮設住宅訪問調査)および住民からの聞き取りを当初の計画通り実施した。また冬期に例年実施している特に厳しい被災状況にある震災遺族への個別聞き取りも計画通り実施できた。ただ初年度に実施予定としていた国際学会での発表を次年度に持ち越しとしたこと、東日本大震災の被災地に加え熊本地震の被災地での聞き取りについては予定が調整できず次年度への持越し課題となった。全体としては順調に研究は進んでいる。
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