研究課題/領域番号 |
17K12638
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
藤原 祐一郎 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (20756142)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 符号理論 / 組合せ論 / 確率的手法 / デザイン理論 / データ圧縮 |
研究実績の概要 |
既存の枠組み内での技術向上による情報処理機器の大幅な性能改善は,近い将来,原理的な限界に達することが予見される.従って,例えば量子力学的な情報の操作を許す量子情報処理や,有機分子の特性を利用する分子情報処理など,既存の枠組みの物理的限界を打ち破る可能性を秘めた,革新的な情報処理の仕組みの実現が喫緊の課題である.しかしながら,こういった代表的な次世代の革新的情報処理方式には,それぞれ固有の技術的課題があり,現段階では実用に耐えるものではない.本研究の目的は,これらの次世代情報処理方式における最も基礎的な部分である,通常の意味での情報通信と時間軸方向での情報通信,つまり情報の記憶について,符号理論,同期の理論,並びにデザイン理論などの離散数学を有機的に活用することで,これまでより信頼性と効率性の面で大幅な改良を可能にする理論基盤の構築に資することである. 本研究を立ち上げた本年度においては,現実に試作の回路を作り上げた際に,その回路が意図通りに正しく動作するかを如何に効率よく,安価に,かつ正確に検査するかという,信頼性を担保するための基本的問題において最も大きな進展をみた.特に,こういった検査では,通常,検査対象回路の挙動データを如何に圧縮するかが最も重要な問題の一つとなるが,本年度の研究においては,単純な線型回路で構成される既存圧縮技術を数学的に精査し直すことにより,現在生産されているコンピュータのCPUにでも簡単に応用できるような形で,既知の圧縮限界についての上限を理論的に改良した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,情報処理の信頼性向上について,量子情報処理とDNAを利用した分子情報処理といった特定の枠組みに主な焦点をあて,研究を推し進める予定であった.この方針においても一定の成果は得られており,国際会議にて部分的進展についての口頭発表を行なっているが,現状,論文として纏める段階にない. 一方.特定の枠組みに限定することなく,一般に適用可能な信頼性担保のための動作検査については,当初の予想を上回る成果が得られており,国際会議においてこれまでに1編の論文が発表された他,もう1編が査読を経て,次年度開催の国際会議においての発表が受理されている. また,本年度の研究を通して,次年度以降により深く考究されたい数学的問題も数多く発見されており,現段階では,本研究は概ね順調に進展していると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
前述の進捗状況にある通り,本研究の初年度を終えた段階では,特定の情報処理方式にだけ特化した面ではやや進展が遅く,逆に,汎用性に重きをおいた,一般的かつ数学的な側面においては予想以上の進展がみられた.従って,次年度の前半では,まず量子情報処理などに特化した研究に対して時間的資源を割くことで研究進展の均衡を図ることが適切であろうと考える.次年度後半については,こちらの特定方式特化型研究においての進捗及び次年度開催国際会議等での最新研究動向調査の結果を踏まえ,特定情報処理方式に特化した研究に引き続き専念するのか,あるいは既存の情報処理方式にも転用可能な技術をより重点的に追求する方針に移行するのかについて,柔軟に対応したい.
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